交換告白が実るまでpart.10 ありがとう
ただただ、今後起きることに恐怖すら覚えていた。何が起こるか分からなくて、どんな目に遭うか考えることもできなくて。
そんな僕を今は後押ししてくれる人がいる。優しく、それでいて厳しく支えてくれる人がいる。
以前の僕には想像すらできなかった話だ。
勝俣礼太郎。
僕が君を助けたなんて言うけれども。君の方が絶対に僕を救ってくれている。君の作った学園喫茶なんて場所がなければ、僕は高校にすら馴染めていなかったかもしれない。
そして君が推理レシピを通して、僕の得意を見抜いてくれた。僕が今、何をするべきか導いてくれた。僕の判断を素敵なものだと評価してくれた。
礼太郎みたいにトラウマを覚えるようなエピソードは残念ながら持ち合わせていない。何かができなくなったきっかけがある訳でもない。それでも何故か前に進めなかった僕を励ましてくれたのは君だ。
だから僕は君を全力で助けたいと思っている。
今回は特に。春雨と僕との関わりを強く連想させて、助けを求めてくれている。僕を何とかできる人だと考えてくれているのではないかと意識しなくても考えてしまう。
だから……!
別に礼太郎だけの話ではない。そばにいる仲間を思い返す。
「秋風さん……」
秋風コノハ。
彼女が僕をこの場所にスカウトしてくれなければ。僕の中途半端な性格。何をやっても途中で終わってしまうような性格をカップラーメンのように例え、まだ成長途中だと感じてくれた彼女。
価値を感じてくれた彼女の恩義に返事をしないと失礼だ。
そんな彼女が礼太郎を大切だと思っているのであれば。僕自身が、自分の弱さが進める足を幾ら邪魔しようとしても、ぶち抜いて歩いてやる。
彼女が人に向ける優しい視線に関しても、もっともっとこれからも見習っていきたい。誰にでも等しく、愛情を、優しさを注げるようになっていきたい。
「……菜月さん」
菜月カレン。
彼女の明るさや気の強さは僕を何度も叱咤してくれた。圧が強く困惑することもあるけれども、だ。彼女の皆を引っ張っていけるような、特有の個性がなければ。きっと礼太郎も僕も何処かで躓いて、走ることができなくなっていた。
きっとこれからも彼女は僕を励ましてくれる。心の中にある本当の優しさや強い正義感で僕達を守ってくれる。
そして、そんなロリに守られるだけではダメだと僕達を奮い立たせてくれる。
「そして、友継……」
彼の冷静さは見習いたいものだ。
無口っぽいけれども。実は礼太郎や僕より、何もかもを見透かして話しているのではないか、なんて思ったことがあった。
予測だけの評価ではない。
今まで何度も調理の腕前を見せてくれた。僕が色々手先を動かせるようになったのは、彼の教授があってこそ、だ。
僕が一つ先へ進化できたのは彼のおしえがあったから。かわした言葉は他の部員よりかは少ないかもだけれども。
昨日の話し合いだって忘れてはいない。
「行くよっ……!」
皆を振り返った後で待っていた放課後。僕は教師に今朝のサボりがバレる前にと動く。居残りなんてさせられたら、約束の時間に間に合わなくなってしまう。
ただでさえ、十六時半と約束の時間まで刻一刻と迫っているのに。時計の針は止まってくれないのに、だ。
しかし、秋風さんは靴箱に向かおうとはしなかった。
「あれ、秋風さん……どうする?」
「ううん、まぁ、私はちょっとやりたいことがあるからさ。先に行っててよ。必ず追いつくから」
「先生に捕まんないでよ」
「大丈夫。最初の時だって君から逃げきれたでしょ?」
「……そもそも凄い怪しい行動が多かったってのを忘れないでよ? 僕だったから逃げれたってだけで」
「てへっ」
てへっ、なんかではないような。
友継と菜月さんは別の教室で帰りのホームルームが伸びているようだった。先に僕は行かせてもらわなければ、だ。
証拠が手に入る時間が少し早くなることはあり得るだろう。それも読んで動くのが一流。予想より早くお客さんで席が埋まること、品切れになってしまうこと。取り敢えず、一通りの予想外を想定できるようにはなったけれども。
「行くの……?」
「うん……って、栗実さん?」
「わたしも心配だから……一緒に行く!」
二人きりかと思って少し緊張しそうになったが、違った。内嶺先輩が自身の腕を抑えて、心配そうに立っている。
「……ワタシも行かなきゃ……こうなった原因はワタシにもあるってことでしょ」
そんな彼女の顔に額から落ちる汗がポトリ。涼しい風が吹くも止まらない。
「だけど、焦らないでくださいね。責任に潰されないように」
「わ、分かってるわ……よ……分かったわよ。心配してくれて、ありがとう」
何だか最初は強い言葉を使おうとしたみたいだけれども。僕を見て、少し優し気な言葉を使っていた。
まだ、まだ彼女の心の中には酷い後悔の念が残っているのだろう。
友達を巻き込んだせいで傷付けてしまった。そのせいで、今も尚危険に晒されている、と。
彼女が出す少し重い空気がありつつも、僕が説明した場所へと向かっていく。
最中、事件の話を栗実さんにしていた。
「まだメールって残ってる? 礼太郎の」
「え……ええ……ちなみに既読は付けちゃったけど、大丈夫かな」
「……消されてないのか」
消されていない。
場所が特定されるかもしれないのに、だ。これだけ長時間あれば、犯人も少しは気付くはず。
助けを求めているサインではないのか、と。
そもそも女子に対してレシピの話など意味が分からないのだから。
もし場所が特定されることに気付いたとしたら。すぐに消しておけば、メモまではされないだろうと考えて消せるのでは。
そうしない訳とは。
「……そういうことかっ!?」
気付いたが。気付いたが、もう遅い。もう僕の家の近くまで歩いてきてしまっている。
栗実さんにも、内嶺先輩にも叫びのような声で伝えていた。
「逃げようっ!」
判断したのが、一分遅かった。もうほんの少し早く気付いていれば。
怪しい男達に、取り囲まれていなかったのに、だ。
「来たな……」
だいたい十八から二十後半までか。それ位の男達が集まって、ひそひそと。時におどろおどろしい声を出す。
そして、真ん中から僕達のよく見知った顔が現れる。奴は前髪を上げ、異様に鋭い眼をこちらに見せつけた。
「……のこのこと誘われてくれて、ありがとな! お前も馬鹿な探偵だよな? 世の中知らなくてもいいことがたくさんあるってのに……!」
僕は栗実さん達の前で腕を大きく開いてみせた。できる限り、あいつらの手が彼女達に触れないように。後ろからの男達から守り切れるか分からないが。それでも全力で。
僕の震える手で、僕の震える口で……。
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