スンドゥブチゲの甘いアリバイpart.4 アリバイ成立

 周りの人達も納得し始める中。僕は何が何だか、だ。

 器の中の料理。紅い液体の中にニンジンやらお肉やら。真ん中には豆腐が浮かんでいる。少し見覚えのある料理、だ。聞いた覚えはあるのに名前が思い出せない。

 料理の横には彼女の凛とした笑顔がある。本物と比べると、少々色が違う気がするのだが。


「写真があるってことは……」


 周りの女子の一人がポツリ。


「アリバイ成立……ほらほら、席に戻った戻った……すずみんも携帯しまって!」


 辛そうなスープの料理とアリバイがどう関係しているのか。女子達は何故納得したのか。

 本当は口裏を合わせているのではないか、なども思ったが。それであれば、「私が一緒にいたよー」と言えば良い。写真で僕に納得させる訳がない。

 完全なアリバイがあるとなると、鶴本が言ったことの訳が分からなくなる。鶴本、彼がクラスメイトを見間違う可能性があったのだろうか。


「そうだ……双子の妹とか」


 その話にまた別の女子が答えた。


「いないよー」

「生き別れてもない?」

「意外と桜木ってそういうのずかずか聞いてくるんだね」


 しまった、と思った。これではデリカシーのない男だ。このまま変な目線を向けられても困ると、逃げたくなったのだが。

 彼女達は別に冷たい視線を浴びせる訳でもなく、鈴見も落ち着いて笑っている。


「まぁ、もし私の知らないところで生き別れの子がいるんだったら、見つけて連れて来てよ。会ってみたいから、さ。その事故現場で、ね」

「い、いるのかなぁ」

「いるかもよ。桜木にもいるかも。桜木晴れとか、桜木曇り、だとか」

「たぶん僕の家にはレインしかいないよ……僕しか……」


 結局、真相は闇の中。彼女の最初の動揺は何だったのか。アリバイが確定した今、スンとした冷静さで僕に対応した。

 これ以上は聞ける勇気も冗談交じりに話せることもなく、ついでに授業までの時間もなかったがために席に戻ることにした。

 犯人ではないのに、何故知らぬ存ぜぬを決め込んでいるのか……。謎だ。

 犯人が彼女の口を封じたのか。いや、犯人もデメリットだらけだ。鶴本も許すと言っているのに。わざわざ犯行を重ねてどうするのか。鶴本が許すというのを知っていると伝えれば、何とかなるか。と考えたのだが。もし違う理由で犯行を否定していたとしたら、僕は恩着せがましく「許すからゲロっちゃいなよ」と言っている最低野郎だ。これ以上、休み時間を使って迂闊に会話することもできなかった。

 授業中シャープペンシルを何度もカチャカチャ押して、考える。どうしてなのか。そう思っていたら、今度は数学の女性教師が指摘をした。


「おーい、きみー! シャープペンシルの無駄遣いはやめておけー!」

「あっ、すみません……」


 またもやクラスメイトが笑いを発する。その中では既に鈴見さんは笑っているかと思いきや、真剣な眼差しを続けていた。誰も気付いていないシリアスに震えそうになる。

 この謎。僕が解いて良いものなのか。

 誰が解くべきか、と思ったところで「学園喫茶部」の面々が思い浮かんだ。ふと秋風の席を見ると、彼女は彼女で何だか考え込んでいる。


「秋風さん、ちょっと」

「ん?」


 昼休みになると、購買にも学食にも行かず。まずは秋風さんを廊下に呼び出した。

 僕のことを知る男子が「あいつ、そんな大胆なことができるようになった訳!?」と噂しているような気がするが。これはあくまで部活動の話でもある。おかしな状態ではないはずだ。た、たぶん。


「話、聞いてた?」

「うん。写真は見れなかったけど……」


 秋風さんにも彼女の立場がある。今になって、それ見せてとは言いにくいだろう。怪しまれたら、クラスにも居づらくなってしまう。

 ただ僕の相談に乗ってくれるだけでも嬉しいのは確か。


「あのさ、昨日の料理によく似てたんだけど、あれって何だろう? 昨日の」

「ん? スンドゥブチゲのこと?」

「あっ、それそれ。何でそれがアリバイになるのかなって思って。どうやら、事故が起こった時間にスンドゥブを食べてることがアリバイになっているらしいんだ」

「もしかして……!」


 何か思い当たりがありそう。そう思ったところで「よっ」と乱入してきたのが勝俣だった。


「おーい! 昨日のどうなった?」


 秋風さんがすぐに事情を話してくれたことで、とある真実が彼の口から放たれた。


「ああ、スンドゥブ! その鈴見さんとやらも、あの店に行ったってことなんだな」

「そうみたいね」


 話の中でに出てくる「あの店」についてはよく分からなくて、混乱する。頭の横で指をくるくると動かしながら、確認した。


「えっ、ちょっと待って。あの店って何?」


 疑問に答えるは秋風さん。


「学校から徒歩で……三十分位、ある場所だね。その事故現場っていうのは分からないけど、怪我をしたっていうのを見たスーパーの近くだって考えると、正反対の距離にあるから、四十分程掛かると思う」

「よ、よく時間とか知ってたね」

「知ってるも何も、昨日はそのお店を参考にスンドゥブチゲを作ってみたいなって話になってたから……まさか、こんなところで関係してくるとは思わなかったんだけどさ」


 その店についての情報は勝俣も喋り始めていた。結構楽しそう。


「まぁ、って言っても、まだ食べに行ってなくて、今日ちょうどいいんじゃないかって思ってたんだよ。ちょうどいい、お前も来いよ」

「あっ、うん……そこでご飯を食べてたってなると、どう考えてもアリバイになるよね……となると、結局鶴本が見たのは幻覚だったってことになるのか……?」

「行ってみないと分からないもんがあるだろ? 本当にその店で食べてたのか? もしかしたら何かジェット機で来てたのかもしれないだろ?」

「んな訳……」

「それに幻覚なんて見れたら、どれだけ嬉しいものか。エロい姉ちゃんの幻覚とか、見て見てぇよ」

「緊張感がないなぁ」


 昨日の推理はまぐれだったか。何だかとっても頼りなさそうな勝俣の顔が映る。不安になる状況で秋風さんも僕と似ているだろう呆れ顔をしていた。


「……礼太郎くん」

「何だ、俺の推理に見直しちまったか?」

「どうしてそんなに楽天的なの?」

「そっちかよ……! まっ、少しでも楽しい方がいいじゃねえか……今日は部活自体は休みだし、皆で食べ歩きとしゃれこもうぜっ!」


 底なしの元気を武器に僕達は謎に挑むこととなる。それだけで何とかなる訳じゃないと、分かっている。しかし謎の底に落とされた僕は、それに縋ることでしか今を生きられない。

 春風が少し暑くなるのを感じつつ、僕は購買へと足を進めることにした。

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