スンドゥブチゲの甘いアリバイpart.5 店舗調査

 店に向かって三人で歩き始めた、今になって緊張感が現れた。

 大勢の人と食を囲むことに慣れていない僕。そもそもご飯などに誘ってもらえることも驚き桃の木アケビの木の状態だ。

 今まで友人とご飯など食べたことがないのに。こんな依頼と言う形でご飯を共にするとは思わなかった。

 放課後が何となく不安で。何となく楽しみで。

 と言っても、今回は僕を含めた三人での食事となるようだった。秋風さんがぼやいている。


「もうカレンちゃんも友継くんも予定が入ってるなんて残念だったね……二人にも食べさせてあげたかったよ! でもテイクアウトがないんだよな……」


 秋風さんは僕達の先導をしつつ、信号待ちの際にスマートフォンで情報を確認していた。今は便利なものだ。食べに行くところの写真をスマートフォンでチェックできる。だいたいの店は食べた時に「思った通りだ」のサービスを受けることが可能となった。

 最中、隣の勝俣から声が掛かる。


「確認なんだけど、時間は大丈夫だよな?」

「時間? ああ、僕の方は別に夜遅くなっても」

「違う。そっちじゃねえ……。それはもう十二時位になるまで連れ回すつもりだから」

「えっ? ちょっ、大丈夫じゃない話が聞こえてきたけど」

「それはどうでもいいとして。事故の時間だが、本当に五時だったのかって話だな」


 どうでもよくないのだけれども。それでも勝俣の疑問に答える方が先だと思い、僕は反応する。


「確か……ええと」


 その考えているところに勝俣は笑い出す。


「そうか」

「えっ? 何々? 僕の話、そこまで頼りない? 聞く価値ないってこと?」

「いやな。考えているところでおかしいんだよな。ってことは五時だって言うのは話してないんじゃないか? 事故の時刻」

「あっ、そうだ。確かに……全く五時だなんて言ってない。五時って言ったのは、鈴見さんだよ。僕は言ってない……周りが納得してたから、普通に皆知っていることかなって思っちゃってたけど……」


 秋風さんも振り返って、驚いたような顔を見せる。


「ってことは、その時刻、事故ったってことを知ってたって訳!? で、わざわざアリバイの証明写真を持ってたの? 犯人じゃないにせよ、絶対怪しいじゃん!」


 ようやく勝俣は僕の考えていたような推理を口にし始めたのだ。先程との変わりように少々ハッとしつつも話を聞いていく。


「だからまぁ、頼りねぇのがヒントにもなる訳だ。頼りなくってもOKなんだよ」

「褒められてる気はしないなぁ」

「ともかく、だ。で、本当に五時でいいのか? 事故。全然違う時間に起こったもので、騙されましたーなんて言ったら、欠伸あくび出すぞ。欠伸」

「勝手に出せば……? でも、うん。レシート。スーパーのレシートで分かるよね。五時二十分位だったと思う。あの日は六時限目まであって、それからちょっと分からないところを先生に聞きに行ってたから。それ位の時間になってたかな、と」

「……なるほど、な。面白くなってきた、な」


 秋風さんも両腕を振って、意気込んでいく。


「だね。面白い謎、かも。一応、写真は見られないかもとは言ってたけど、他の子にあの店行ったかどうか聞いて、どんなの食べたのって聞いたら、『後で送るよ』って言ってたから。もしかしたら、他の子越しに写真を送ってもらえるかもしれないよ」


 少し安心できた。僕の証言だけだと、やはり心もとない。写真を見ながら、ああだこうだ話す方が良いのではないか、なんて思ってしまっていた。

 期待しつつ、見えてきた料理屋に入店していく。レンガ造りの大人しい感じの店だが、中は少し蒸しっとした感じもある。入口から見えた厨房が火の強さが原因であろうか。

 考えながら入口近くの四人席に座る。そして早速僕の隣に座った勝俣はテーブルにあるQRコードをスマートフォンのカメラで読み込んだ。そこからメニューがずらり。僕と秋風さんは覗き込む。


「何か、凄いおいしそっ……でも辛そう……」


 少し食べ物に魅力されて忘れそうになるも、僕達は謎を解くためにここにやってきたのだ。

 本当に昨日の午後五時頃に彼女が来たのか。

 見回すも一応客は何人かいる模様。その中には僕達と同じ制服の人間も何人かいた。この状況では店員が鈴見さんの姿を見たか、覚えていたかなど定かではない。一応、防犯カメラはあるだろうが。刑事事件でもない、この事態に店員が見せてくれるはずもないだろう。

 違うところから、アリバイの証明について迫っていかねばならない。

 僕は怖い顔をしていたのか。向かいに座っていた秋風さんに声を掛けられた。


「で、そんなに何にするか悩んでるの? 勝俣は激辛に決まったけどさ。桜木くんはどれ食べる?」


 僕は隣で「俺、いつ、激辛に決まったの!? 嘘、食べるの!?」と驚いているが。僕は今は辛いのが食べたい気分でもなかった。海鮮入りの辛くないものに決める。

 それから状況を整理した。


「結局、鈴見さんはここに来ていたからアリバイがあったってことだよね。三十分……バスや電車もないし……タクシーだったとしても十分は掛かる状況だからな……」

「ううむ……」


 結局無理なのか。そう思う僕に勝俣がアリバイ写真の存在について異議を出す。


「でも、それが偽物ならいいよな。顔とスンドゥブが映ってたってことだろ? ほら、例えばAIとか! AIとか使えば、その辺作れるんじゃねえか?」


 生成AI、その可能性があるか。考えた瞬間で秋風さんが苦い顔をした。


「できるかなぁ?」

「ん?」

「いや、この前、カレンちゃんと一緒にSNS見てた時、ラーメンを手で掴んでるAIイラストが出てきたんだよ? そのイラストAIが何の違和感もなく、ちゃんとした顔を出せるのかなって……お絵描きもそうじゃない? そこまでのプロじゃなければ……簡単に加工なんてできないわよ。どうしても不自然さは残っちゃうと思う」


 その上で勝俣は自身の発言と状況を振り返っていく。


「それでいて、今日アリバイについていきなり聞かれた状態だったな……? だったら、そもそも見られるとは思ってない……保険でアリバイを作っていたって状況だからな。そこを完璧にしておくってのも、何か引っ掛かるんだよな……別に俺達って学生なんだから」


 確かに、だ。

 学生ならば、だ。そこから考えると、プロに頼んだ可能性も低いだろう。お金が掛かる上にそんな手間のかかるようなことをするなら、手っ取り早くアリバイ証人を雇った方が良い。彼女は上位カーストグループの人間。少し下の人を誘惑するでも良し。仲間に嘘でもついて、お願いするでも良し。

 僕とは違って無数の選択肢があったはずだ。

 勝俣は今の話から顔に手を当てつつ、やるべきことを口にした。


「ってことは実際にそのスンドゥブと顔写真は撮られたものだってことだ。つまり、その写真が他の場所で撮れればOKってことだよな! でも、そんな方法があるか、だよな……!」


 

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