第1話 【始まりにして終焉の街にて】


 今日も俺は草を集めていた。


 枯れかけた森で生える草は少なく、頑張って集めてもほとんどが使い物にならない。

「ありがとうございます」

 それでも集めてきた物を受け取った村の人間はとても感謝してくれるのだ。


 冬田凍環はそれだけで随分救われていた。



 気が付いたときには凍環は枯れかけた森で1人でいた。


 何故ここにいるのか、何も分からなかった。

 自分の身に何があったのか?


 ……そんな事を凍環が考えたのは数日くらいだった。

 生きていくのにそんなことを考えている余裕などなかった。

 日本とは異なる世界。

 日本とは異なる文化。

 生活レベル所か生活で使っている物など全く原理も違っている中で、自分は生きていかなくてはならない。

 凍環は必死だった。

 それでも幸い、保護してくれた村の人々はとても親切だった。

「そう。そうやって調整するのよ」

 村の親切なおばさんが魔石で動くコンロの火の調整の仕方を教えてくれた。

「ありがとうございます」

「ふふふ。私でもこれくらいなら教えて上げられるわ」

 大半の村人達が薬師という村で、外から嫁いできた普通の女性でしかないという女性は嬉しそうに言った。

 凍環はこの女性には随分色々な事を教わっており、一番頭の上がらない人でもあった。

「材料は揃っているみたいね。1人で大丈夫?」

「ええ。やってみたいです」

「もし失敗したら私の家に来てね、トワ」

 実際には凍環は『トウワ』と読むのだが、この村の人々には発音しづらいらしく、今ではトワと呼ばれるようになった。


 女性が家を出て行った後、1人になった凍環はこの地に来るまでした事のない料理を始めた。

 なるべく簡単な物を教えてくれたのだが、初めてなのでどうなるかは運次第だろう。

 この世界にいる限り絶対に自活していかないといけない。


 それでも、頼れる知り合いなどいなかった前の生活よりましじゃないか。



 訳の分からない状況に凍環はそれなりの光明を見いだしていたのだが、

「これはあの旅人に……」

 この村を去って行く村人が村長に荷物を手渡した。

「分かった。必ず渡す」

 礼をして、村人は立ち去った。

 もう二度と村に戻る事はない。


 昨日は2人、今日は1人。明日は何人?

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幸せを切望する青年は絶望のエルフと旅をする 夏見颯一 @s-natumi

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