幸せを切望する青年は絶望のエルフと旅をする

夏見颯一

プロローグ

 俺はあまりツイていないだけなんだ。


 そう言い聞かせて、ずっと生きてきた。

 欺瞞だと分かっていても、自分が折れたなら自分を助けてくれる者なんていないだろ。

 馬鹿にして、嘲り笑って、それで去って行くだけ。

 だから、自分が自分の味方でいて何処が悪いんだ?


「いいわよ。たまには」

 仕事の話のほんの合間。

 切っ掛けなど分からないほど些細な会話だった。

 冗談だと簡単に言い直せるような軽い会話の流れで、俺は以前から少しだけ好意を抱いていた女性をデートに誘ってみた。

 あはは、冗談だよ。

 そう、流す予定であった俺に、晴天の霹靂だった。


 最近女性が気になっていた店が丁度俺が誘ったカフェに入ったビルに同じく入っているらしい。

 彼女が行きたいお店もブランドの店などではなく、本当に小さな生菓子を扱うお店で値段も一等地のビルのテナントとして入っている割には高くない。


 やった!


 一緒に行って、ちょっと彼女の行きたいお店の品をちょっと買えば、好感度は高くなるんじゃないか!


 これほど勝ち組になるのに楽々な道筋は、俺の人生の中で初めてであった。


 やった!


 だけど、その待っていたデートの日が来る前に、俺は異世界で草を集めることになってしまった。

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