第19話『決断の時、伝えた想い』


 朝の光が窓から差し込み、そらはベッドの上でしばらくその光に包まれていた。

 昨日の夜、心の中で何度も繰り返した言葉が、今朝の清々しい空気の中でさらに強く感じられる。


 「私は音楽をやりたい。」

 その決意を胸に、そらは朝食を済ませると、すぐに支度を整え、家を出る準備をした。

 心なしか足取りも軽く、学校への道を歩きながらその決断を再確認する。今日、この決断を誰かに伝える。それが自分にとって、どれほど重要な一歩であるかを感じていた。


 学校の校門をくぐると、すでに何人かの生徒たちが集まり始めていた。

 あのクラスメイトたちの顔が、自然と浮かんでくる。悠真、彩花、そして愛莉。

 みんなの顔を思い浮かべながら、そらは少し緊張した面持ちで、いつものように自分の席に向かう。

 その途中、ふと見かけた悠真が、手を振りながら近づいてきた。


 「おはよう、そら。」

 「おはよう、悠真。」

 彼のいつもと変わらない笑顔に、そらは少しだけほっとする。悠真に、あの決断を伝えるのは少し怖かったけれど、きっときちんと伝えるべきだと思った。


 「そら、どうしたの?ちょっと元気ないように見えるけど。」

 悠真が心配そうに尋ねてきた。

 「ううん、元気だよ。ただ、少し考えることがあって。」

 そらは小さく笑顔を作ると、席に着くために歩き出した。


 その時、悠真が何かを感じ取ったように、少し真剣な表情を浮かべてそらに近づいた。

 「そら、もし何かあったら、いつでも話してくれよ。」

 「ありがとう、悠真。」

 そらはその言葉に少しだけ胸が温かくなった。そして、自分の決断を伝えるべき時が来たことを感じ取った。


 授業が始まり、少し時間が経過した後、昼休みの時間が訪れた。

 そらは、いつものように彩花と愛莉と一緒に食堂へ向かったが、その途中で足を止める。


 「彩花、愛莉、ちょっといい?」

 そらは二人に向かって声をかけた。

 「どうしたの、そら?」と愛莉が心配そうに尋ねる。

 「実は……私、音楽科に進むことに決めたんだ。」

 その言葉を、そらはすっと吐き出した。

 彩花と愛莉は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに笑顔を浮かべた。


 「そら、決めたんだね。」

 彩花が言った。

 「うん、これが一番自分らしい選択だと思ったから。」

 「そっか……すごく勇気がいることだと思うけど、応援してるよ。」

 愛莉も穏やかに微笑みながら、そらの肩に手を置いた。


 「ありがとう、彩花、愛莉。」

 その言葉に、そらは胸の中で温かい気持ちが広がっていくのを感じた。

 そして、あの決断を下して本当に良かったと思える瞬間だった。


 「でも、どうして今のタイミングで決めたの?」と彩花が不思議そうに聞いた。

 「昨日、家でいろいろ考えて、音楽が本当に好きだってことに気づいたから。」

 そらは少し照れくさそうに答えた。

 「それで、私、やっぱり音楽の道を進みたいって思ったんだ。」


 愛莉がにっこりと笑って言った。

 「本当に、そららしい選択だね。でも、やっぱりちょっと寂しいな。」

 「私も、少し寂しいけれど、それでも応援してる。」

 彩花が頷きながら、そらを見つめた。


 その言葉が、そらの心に優しく響く。

 「ありがとう、二人とも。」

 そらは改めて感謝の気持ちを込めて言った。


 その後、昼休みが終わり、放課後の時間が近づくと、そらは再び悠真に会う機会を作った。

 放課後、教室が静かになった瞬間、そらは悠真を呼び止める。


 「悠真、ちょっとだけ話せる?」

 悠真は少し驚いたような顔をしたが、すぐに頷き、そらに近づいた。

 「どうした?」

 「実はね……音楽科に進むことを決めたんだ。」

 悠真は少し黙っていたが、やがて嬉しそうに笑った。

 「そららしい決断だね。」

 「うん、今はそれが一番大切なことだって思うから。」

 「そうだね。応援してるよ、そら。」


 悠真のその言葉に、そらは少しだけ涙をこらえる。

 そして、自分の決断に自信を持って進んでいく覚悟が固まった。

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