第18話『新たな決意、明日のために』



 その夜、そらは悠真との会話を思い返しながら、静かな部屋の中で自分自身を見つめ直していた。

 決して簡単な選択ではなかったけれど、悠真が言った言葉が、少しずつ心に響いていく。


 「急いで決めなくてもいい。」

 その言葉が、そらの胸に温かく広がった。


 確かに、焦って決断する必要はない。

 自分が本当に何を望んでいるのか、心の中で少しずつ整理していけばいい。ただ、今は自分の思いを大切にして、時間をかけて考えることが大切だと感じた。


 「音楽……」

 そらは自分の手のひらを見つめた。

 指のひとつひとつを動かしながら、音楽を弾くことの喜びを思い出してみる。

 小さい頃から感じていた音楽への愛情。それが今も自分の中で大きく膨らんでいることに気づく。けれど、その一方で、音楽の道を選んだ場合の不安や、今後のことをどう考えるかといった重圧も感じていた。


 静かな部屋の中で、心の中で整理をつけようとしたその時、部屋の扉が静かに開き、母親が顔を出した。


 「そら、大丈夫? さっきから何か考え込んでるみたいだけど。」


 母の声に、そらは思わず顔を上げた。

 母親は優しげな微笑みを浮かべながら、そらのそばに近づいてきた。

 「何か、気になることがあるなら、話してもいいんだよ。」


 母親のその一言に、そらはふっと肩の力を抜いた。

 長い間、母親とは深く話すことがなかった。でも、今なら、心の中で感じていることを打ち明けられる気がした。


 「実は……音楽科に進むか、普通の道に進むか、すごく迷ってるんだ。」

 そらは自分の迷いをそのまま話した。

 母親は少し驚いたように目を見開いた後、静かに頷いた。


 「音楽が好きなんでしょう?」

 「うん、すごく好き。」

 「でも、音楽の道を選ぶのは怖いって思うの?」

 「うん、もちろん怖いよ。だって、もしうまくいかなかったら、今まで頑張ってきたことが無駄になってしまうかもしれないし、そんな風になりたくない。でも、好きなことをやりたいという気持ちもあるから、どうしていいかわからないんだ。」


 そらは心の中で感じている不安を素直に吐き出してみた。それを聞いた母親は少し考えてから、やわらかい笑顔を浮かべて言った。


 「そらが本当に好きなことをしていれば、どんな道に進んでも、きっと後悔はしないよ。」

 母親の言葉に、そらは少しだけ驚いた。

 「でも、もし……」

 「もし、うまくいかなかったらどうするか?」と母親はそらの言葉を続ける。「その時は、その時に考えればいいんじゃないかな。人生って、一度きりだし、今選べる道を選んだら、あとはその道を信じて進んでいくしかないと思うよ。」


 母親の言葉には、深い意味が込められているように感じた。

 「進む道を選んだら、後悔せずにその道を歩んでいく。それが一番大事だと思う。」

 そらは静かに母親の言葉を受け止めた。

 そして、その言葉が今の自分にとって一番大切なものであることに気づく。


 「わかった、ありがとう、ママ。」

 「何かあったら、またいつでも話してごらんね。」


 そらはその後、母親と少しだけおしゃべりをした後、自分の部屋に戻った。

 心の中の不安はまだ完全には消えていないけれど、少しずつ整理ができた気がした。



---


 翌朝、そらはいつもより少しだけ早く起き、朝の静かな時間に自分の気持ちを再確認した。

 音楽科に進むべきかどうか。

 どの道を選んでも、きっと迷うことはあるだろう。それでも、自分の中で一番大切なことを見失わずに、進んでいくべきだと思った。


 「私は音楽をやりたいんだ。」

 そらは小さく呟きながら、深呼吸をした。そして、心を決める。


 その決意を胸に、そらは今日も学校へと向かうのだった。


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