第17話『決断の時、揺れる心』



 凛の言葉が心に響いたまま、そらはその夜、眠れぬままベッドに横たわっていた。

 天井を見つめながら、何度も自問自答を繰り返していた。

 「音楽科に進むべきか、普通の道を歩むべきか。」

 その二択に心が揺れ動く。どちらの道も決して楽ではないと、わかっていた。


 明日の朝、もしも音楽科に進むことを決めれば、すべてが変わる。

 今までとは違う生活が待っている。

 学校の勉強に加えて、音楽に対する技術や理論を徹底的に学び、最終的には演奏家としての道を目指すことになるだろう。

 その先には、無数の挑戦が待ち受けている。しかし、それと同時に音楽の世界に身を置ける喜びも感じられるかもしれない。


 一方で、普通の道を選べば、音楽を趣味として続けながら、一般的な進路を進むことになるだろう。

 それでも、何かを深く学ぶことに対しての不安が、そらの心にひっかかっていた。音楽に没頭することの恐れと、それによって失われるかもしれない日常が、どこかで怖かった。


 「どうしたらいいんだろう……」


 そらは無意識に目を閉じ、深い息を吐いた。

 その時、ポケットに入れていた携帯が震え、通知の音が鳴った。

 画面に表示されたのは、悠真からのメッセージだった。



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「そら、今大丈夫? ちょっと話したいことがあるんだ」



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 そのメッセージを見た瞬間、胸がドキリとした。

 そらは急いで返信を打ち始めた。



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「大丈夫だよ。今、考えてたところだよ。」



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 すぐに悠真から返信が返ってきた。



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「よかった。それじゃあ、今すぐ会える?」



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 少し驚きながらも、そらはスマホを握りしめ、立ち上がった。

 外はすでに夜の深い時間。だが、何かを決めるために、今会わなければいけない気がした。心の中で、何かが動き出している。



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「うん、今行く。」



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 急いで外に出ると、涼しい風が顔に当たった。

 その夜風を感じながら、足早に悠真の指定した場所へ向かう。

 途中、街の明かりがまばらに照らされ、静かな夜が広がっていた。その中にひときわ明るい月が浮かび、何となく心を落ち着けてくれる気がした。


 しばらく歩くと、悠真が少し遠くから見えてきた。

 立ち止まり、軽く手を振る。彼も微笑んで返してくれた。


 「ありがとう、そら」


 悠真のその言葉に、そらは少し照れくさそうに笑った。

 彼が待っていたのは、単に話をしたかったからだけではない気がした。


 「どうしたの? 何か大事な話があるんだよね?」


 「うん、実は……」


 悠真は少し躊躇いながらも、真剣な眼差しを向けてきた。


 「僕も、そらに言いたいことがあるんだ。」


 その言葉に、そらの胸が一瞬で高鳴る。

 彼は少し顔を曇らせ、ゆっくりと口を開いた。


 「さっき、凛からも聞いたけど、そらが音楽を本気でやる覚悟があるのか悩んでいるんじゃないかって……」


 「……うん。」


 そらは短く答えた。その心の迷いが、悠真に伝わったことを、わかっていた。


 「僕は、そらがどうしても音楽をやりたいなら、全力で応援するつもりだよ。でも、もし悩んでいるなら、今すぐに答えを出す必要はないと思う。」


 悠真のその言葉に、そらは少し驚いた。

 普段の悠真は、どちらかというと自信満々で頼りがいのある人物だと思っていたから、こんなにも優しい言葉が出てくるとは思っていなかった。


 「急いで決める必要なんてないんだ。時間があるなら、しっかり考えて、どっちの道が自分にとって一番大切なのかを見極めればいい。」


 悠真の優しさと、彼の真剣な眼差しに、そらは少し涙がこみ上げてきた。

 「ありがとう、悠真……」


 「それから、どんな決断をしても、僕はそらの味方だよ。どんな道を選んでも、支えていくつもりだから。」


 その言葉を聞いた瞬間、そらは決心を固めた。

 悠真の言葉が、自分の中の不安を取り除き、勇気を与えてくれた。


 「ありがとう、悠真。私、もう少しだけ考えてみるけど、きっと決めるよ。」

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