第20話 秘密結社ノ地下要塞

 車は舗装もされていない、森の奥の細い道をしばらく走り続けた。空は既に太陽が上りきっているはずなのに、森が深く、木々の間から洩れる光りが、道をかろうじて照らしていた。


 やがて、私たちは目的地、森の奥に佇む、古びた城にたどり着いた。


 蔦が絡みつく石造りの壁、塔のてっぺんには今にも崩れそうな瓦。

 けれど、その重厚な鉄扉と、かすかに灯るランタンの明かりが、そこがただの廃墟ではないことを示していた。

 まるで時間の流れから切り離されたような、不気味でいて、美しい場所だった。


 私は車を停め、助手席のめぐみちゃんに声をかけた。


「着いたわ。ここが――私たち組織の拠点よ。」


 めぐみちゃんは扉の前に立ち、口を開けて古城を見上げた。

 塔から城壁まで、上から下まで、ゆっくりとその目に焼きつけるように。


「映画で見るやつじゃん、これ……」


「ふふ、素敵でしょ。」


 私は笑いながら、扉を押し開けた。錆びた蝶番が軋む音が、森の静寂を裂いた。


 長い石の廊下を歩きながら、私は口を開いた。


「私たちの組織を説明する前に……まず、“能力者の歴史”を知ってもらわなければならないわね。」


 めぐみちゃんは怪訝そうに眉をひそめた。


「なんで今、歴史が関係あるのよ?」


 私は肩をすくめ、少し笑いながら言った。


「まぁ、いいからいいから。大事な話だから、ちゃんと聞いて。」


 私はゆっくりと話し始めた。


「能力者が最初に確認されたのは、おおよそ100年前。

 最初の能力者の名はウェザー。天候を操る力を持っていた人物よ。

 場所は――アフリカ大陸。あまりに強力なその力は、突如として嵐を起こし、数千人規模の死者を出したと記録されているわ。」


「……それって、もう災害じゃん。」


「そう。災害だった。でも、それはまだ始まりに過ぎなかったの。」


 私は廊下に掛けられた古い肖像画の前で立ち止まった。かつての能力者たちの記録だ。


「ウェザーほどの強力さはないにせよ、その後、世界中で“異能”を持つ人々が現れ始めた。

 嘘を真実とする者、怪我を直す者、時を止める者……そして磁力を扱う私のような者も。」


 私は振り返り、めぐみちゃんの目を見た。


「当然、世界は混乱した。各国の政府はこの事態を重く見て、国際連合……いいえ、当時は国際連盟だったわね……に報告を上げた。

『このままでは人類社会の秩序が崩壊する』と。」


「……それで?」


「国際連盟は、“能力を制御・軽減し、最終的には無力化する”という方針を打ち出したの。

 普通の生活を能力者にも与えるために。」


「……へぇ。今と真逆ね。」


 私は静かにうなずいた。


「そう、でも――時代がそれを許さなかった。

 世界はやがて、第二次世界大戦へと向かっていった。

 各国は、能力者を“兵器”として活用できないかを研究し始めたのよ。」

  

「そして、その流れは、冷戦へと引き継がれ、いまや長い世界の平和の裏でも、いつ起こるかわからない戦争に向けて、研究は止まることなく、各国が秘密裏に進めているわ。

 あなたが昔保護されていた、日本政府の組織、施設もその流れを引き継いでいるわ。」


 廊下の奥、重厚な扉の前で私は立ち止まった。


「私たちは、その世界の流れで、異端思想として扱われるようになった、国際連盟の異能抑制推進会の残党よ。

 ここから先が、私たちの“中枢”よ。能力者たちが、世界の裏でどう扱われてきたか――そして、私たちが何を目指すのか、全部教える。」


 めぐみちゃんは小さく息をのみ、頷いた。


 扉を開け、私たちは、地下奥深く、第一次戦争時に作られた巨大な地下塹壕に続く階段を下って行った。

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