第4話 交換条件02
「優香ちゃん!そろそろやろっ!」
「そうですね。机は、これと私のをくっつけちゃっていいですか?」
「うん!それでいいよ」
今日私は急遽お弁当のお礼として、全く別の世界の住人だったはずの三部さんに勉強を教えてもらうことになった。私はずっと彼女は努力しないでも地頭のみで生き抜いていける天才で、努力なんて微塵もしていないのだと思っていた。けれどそれは違って、彼女はとてつもなく陰で努力をしていた、超絶努力型の人だった。
「じゃあ、はじめよっか!笑」
「はい。よろしくお願いします。」
私たちが勉強を始めようと教科書やノートを開き始めた時、勢いよく教室の扉が開き、10人ほどの女子が中に入ってきた。
「あっカスミン!悪いんだけど、教室使ってもいい?」
「真紀子!?バスケ部って体育館でいつも練習してなかった?」
三部さんに話しかけてきたのは同じクラスの
「いつもは体育館なんだけど、今日ちょうどバレー部とハンドボール部の練習試合が重なっちゃって…、そんでトレーニング室に向かったんだけど、そこはそこで新体操部とダンス部が使っててさ…」
「あねあね。う〜ん、私はいいけど、優香ちゃんどうしたい?」
「えっ?わ、私ですか?」
「あれ?三部っちじゃん!なんでカスミンと一緒にいるの?二人ともそんなに仲良かったっけ?」
「最近仲良くなたんです〜。ね〜?優香ちゃん!」
「えっ…、あっ、はい!」
「そうだったんだ!知ってると思うけどうち、北村真紀子。カスミンの友達ならうちの友達だ!これからよろしく〜!」
「は、はい。よろしくお願いします…」
【なんか、三部さんと関わるようになったからか、絶対に関わることはないと思ってた人たちに絡まれやすくなってる気がする…】
心の中で、多少愚痴りながらも初めて話す北村さんとの会話をなんとか続ける。
「そんでさ、優香ちゃんどうする?」
「そうですね…、でも、私たちのせいで部活の人たちに迷惑をかけるわけにもいかないので、今日のところは解散しますか。」
「そだね。ってことになったから、使って大丈夫だよ!」
「カスミンも三部っちもありがとう!まじで感謝!」
私と三部さんは手早く帰宅準備を済まし、教室をバスケ部の人たちに渡した。
「ねえ、優香ちゃん?」
「なんですか?」
「私の家この近くだから、そこで勉強して帰る?」
「えっ?流石に悪いですよ」
「大丈夫だよ笑 私一人暮らしだし!」
「そうなんですか…。なら、まあ、お邪魔させていただきます」
「うん!じゃあ、行こっか笑」
私たちはなんとかぎこちない会話を繋ぎながら三部さんの家に向かった。着いた先は綺麗なアパートだった。
「ようこそ!私の家へ!上がって上がって!」
「お、お邪魔しま……えっ?」
彼女の家に上がった瞬間、目に飛び込んできたのはありえないほどに散らかった部屋だった。
「ちょ〜っと散らかってるけど気にしないで笑 ちゃんとゴミとかは捨ててるから!」
「…ちょ、ちょっと?これがですか!?」
部屋には読みっぱなしの雑誌や漫画、コンセントに繋いだままのドライヤー、洗濯が終わった衣類が置きっぱにされており、足の踏み場がかろうじてある程度だった。
「じゃあ、この机の上使おっか。今片付けるから待っててね」
彼女はそういうと、机の上のものをポイポイと床や棚に適当に置いて行った。
「三部さん、勉強の前に…、」
「ん?どうしたの?」
「片付けしましょう!!片付け!ひどすぎます!」
「えっ?そ、そうかな…?笑」
「はい!私も手伝うので、やりましょう!」
「わ、わかった…。でも私、片付けとか洗濯とかの家事が全くダメで…。」
「えっ?三部さんも苦手なことあったんですか?」
「そりゃあるよ笑 優香ちゃん、ラフスタで私の料理の酷さ見てるでしょ?笑」
「あっ、そういえば…、そうでしたね」
「優香ちゃんが笑うことがあるように、私にだって苦手なことがあるんだよ」
「そうですね笑 まあ、でも、それとこれは別なので、片付けしましょう」
「はい…。すみません。」
床の上に散らかった雑誌や漫画、参考書を本棚に戻し、ドライヤーやヘアアイロンを洗面台に持っていく。洗濯物を畳み、また新しい選択を回す。二人で協力して片付けするも、あまりにもやることが多すぎて、終わった頃にはもう7時だった。
「結構片付きましたね…」
「うん!めちゃくちゃ広く感じるよ!ありがとう!」
「もう7時ですけど…、家に帰って夕飯の用意しなきゃだし…」
私が夕飯のことで頭を悩ませていると、タイミングよく姉から連絡が来た。
『今日、急遽サークルで飲み会することになったから夕飯大丈夫。連絡遅くなってごめんよ〜泣』
「あの、三部さん。」
「ん?どうしたの?」
「今日の夕飯のご予定は?」
「えっ?優香ちゃんが帰ったらコンビニで弁当買おうと思ってるけど…」
「そうですか。その、今姉から夕飯はいらないと連絡が来て…、よければついでに一緒に食べませんか?」
「えっ!?いいの?!」
「はい。今から家に帰って自分の分を作るのは面倒なので…、今ちょうど三部さんのお家にお邪魔させてもらってるのでお礼に…」
「でも、結局片付け手伝ってもらっちゃったし、流石に悪いよ…」
「いえ。私的にも一緒に食べた方が楽なので」
「そう?じゃあ、お願いします」
三部さんの了承を得てからキッチンに行き、冷蔵庫を開ける。そこには半分だけ残った白菜とにんじん、冷凍された鶏肉、ちくわ、そして賞味期限スレスレのお豆腐が一丁残っていた。
「あの、冷蔵庫の中身少なすぎませんか?」
「そ、その、あんまり自炊しないからさ…」
「そうですね…、今日は鍋でもいいですか?季節的にちょっとずれてますけど…」
「うん!なべ好きだから嬉しい!」
「調味料と大きめな鍋はありますか?」
「うん!お母さんが群馬から送ってくれたから、そういうのは一式そろってるよ」
「…三部さんも群馬出身なんですか?」
「もってことは…、優香ちゃんも!?」
「は、はい。」
「意外なところで共通点があったね笑」
「そう、ですね笑」
軽く雑談したり、今日の学校の出来事を話したりしながら三部さんに野菜を切ってもらったりして、私は手早く鍋の用意をした。
「できました。」
「おぉ〜!めっちゃうまそう!」
「それじゃあ、三部さん、取り皿と箸の用意をお願いします。数、足りますか?」
「うん!たまに家族来るから、一応ね。」
「じゃあ、私はそれを使わせてもらって大丈夫ですか?」
「うん!大丈夫だよ。テーブルに並べちゃうね」
「お願いします。それと、IHのようなものはないので、早めに食べましょう。じゃないと、冷めてしまいます。」
「そうだね!食べよっか!笑」
「「いただきます」」
高校生活で絶対に関わらないであろう人と今、その人の家で鍋を囲んで食べている。本来なら異質な感じなんだろうけど、私はなぜかそれが居心地よく感じた。
「う〜んっ!美味しい!これ、めちゃくちゃ美味しいよ!」
「口に合ったのなら良かったです笑」
「うん!めちゃくちゃ合いました!」
「季節的にはもっと涼しいもののほうがよかったですね」
「まあでもいいと思うけどな。おいしいし!」
「…。そうですね。」
姉以外の人と食卓を囲むのは約2年ぶりだったので、いまいち距離感がつかめず会話が終わってしまった。私が何とか会話を続けなきゃと焦っていると、三部さんが口を開いた。
「そのさ、これから優香ちゃんのこと、優香って呼んでもいい、?嫌だったら、無理にとは言わない!けど、家に来て一緒にご飯食べたし…その、そろそろ呼び捨てでもいいかなって…」
「…!そ、そうですね。呼び捨てでも構わないです。その、わ、私も、三部さんではなく、香澄ちゃんと呼んでもいいですか?」
「ーーッ!うん!是非ともそう呼んで!なんなら、タメ口でいいのに」
「い、いえ。その、家族以外の人とタメ口でしゃべるのはしたことないので…、慣れないというか…」
「そかそか。大丈夫だよ無理に変えないでも」
「ありがとうございます」
「うん。これからよろしく!ゆ、優香!」
「は、はい!香澄ちゃん!」
それからの会話は、共通の地元である群馬の話や実家のペットの話、中学時代にどんな事があったかなどを話て楽しく鍋を食べた。
「ごちそう様でした!」
「はい。お粗末様でした。」
「洗い物は私がやっておくよ!それよりもう夜遅いから、バス停まで送るよ。」
「あ、ありがとうございます。でも、その、すぐそこのバス停からバス乗るだけなので、大丈夫です。」
「そう?」
「はい。」
「わかった。じゃあ、また明日ね」
「はい。また明日」
私は香澄ちゃんと玄関先で別れ、バス停までの道を一人で歩いた。
【絶対に関わらないって思ってたけど、未来ってやっぱりわかんないよね笑】
私は少々スキップ気味に、帰路を進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます