第5話 放課後会01

色々と偶然が重なり、なぜか香澄ちゃんの家で掃除をして、一緒に鍋を食べた。ほんの二週間ほど前なら、住む世界が違うと私も香澄ちゃんも話すことすらしなかっただろう。そんな私たちは、ラフスタという共通のアプリを通じてそこそこ親しい仲になった。

 「優香!おはよっ!」

 「あ、おはようございます。今日早いですね。まだ教室誰も着てないですよ笑」

 「そうなんだよね笑 ちょっと今日、優香と話したいことがあってさ。いつもの時間だと二人で話しできないし、優香も話しかけてくれないでしょ?」

 「そ、それは…!…そう、ですね。すみません」

 「いいのいいの!それは全然良くてさ!その、今日早く来たのはさ、この前の約束覚えてる?」

 「約束って、放課後に勉強をってやつですか?もちろん、覚えてますよ?」

 「そうそうそれ。そんでね、今日の放課後どうかな〜と思って」

 「今日ですか?私は全然大丈夫ですよ」

 「ほんと!?じゃあ、今日やろ!」

 「はい。よろしくお願いします。」

 私たちの朝の会話は、約束の取り付けのほかに今日のお弁当の話や授業の宿題の話などをして終わった。

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 キーンコーンカーンコーン♪キーンコーンカーンコーン♪

 六限終了のチャイムがなり、クラスの人たちが帰宅の用意を始めた。そんな中私は、放課後の勉強の準備をしていた。未だかつて誰かと一緒に勉強をするなんてしたことがなかったが、心なしかウキウキしているのは自分でも気づいていた。

 【もうクラスの人もほとんど帰ったし、そろそろ始めてもいい頃かな?…いつも香澄ちゃんから声かけてもらってるし、今日は私から声かけてみよ】

 「か、香澄ちゃん!」

 「あっ優香!って待って、優香から声かけてくれるの初めてじゃない?めちゃ嬉しいんだけど!」

 「あっ、その、いつも声かけてもらってるので、今日は私から声をかけてみようかと…、あの、もうやれそうですか?」

 「うん!できるよ!」

 「じゃ、じゃあ、机はこの前みたく私の席と前の席の机を合わせる形でいいですか?」

 「うん!それでいいよ。私ちょっとロッカーから持ってくるものあるから、机の移動お願いしていい?」

 「…?分かりました。じゃあ先に用意してますね」

 「うん!お願い!」

 そういうと彼女は小走りで教室の外に出て行った。それと同時に私も自席に戻り、二人分の勉強スペースを作った。ちょうど私が机のセッティングと自分の勉強する科目の用意が終わった頃、香澄ちゃんが自分の勉強道具と大きめのコンビニ袋を持って教室に戻ってきた。

 「おまたせっ!」

 「私も今準備が終わったとこです。けど…、どうしたんですか?その大きな袋」

 「そりゃあ決まってるでしょ!お菓子だよお菓子!勉強会には必須だよね〜」

 そういうと彼女は袋からチョコレートやポテトチップス、グミとかを机の上に並べ始めた。

 「て、手慣れてる…」

 「まあね〜笑 私は勉強はみんなで楽しくやる派だからさ」

 「そう、いうものですか。…私、今まで誰かと一緒に勉強したことなかったので、なんか新鮮です。」

 「…まじ?初めてなの!?じゃあ、私一人目?」

 「そうなりますね笑」

 「おぉ〜!嬉しいな笑」

 「そこまで、嬉しいものですかね…?わ、私なんかよりも、一緒に勉強するの楽しい人たくさんいる気がします…」

 「何言ってんの!私は優香と一緒に勉強会したかったんだよ。他の人は今は別に〜って感じだよ」

 「そ、そうですか…//」

 香澄ちゃんは笑顔でありながらもまっすぐ私をみて、私の言葉を否定した。尊敬にも似た感情を持つ相手に、自分だけと言われるのが嬉しくもなぜか恥ずかしくて、私は目を逸らした。

 「…優香?どうしたの?」

 「い、いえ!その、香澄ちゃんはどうやってそんなに勉強してるんですか?私、勉強をしても結局理解できてなくて、ただただ時間を浪費して終わっちゃうんです。だから、香澄ちゃんの勉強方法が知れればなと思って…」

 「勉強法かぁ。う〜ん、そうだな…。そこまでなんかこだわってないけど、強いていうならめちゃくちゃ復習してるかな笑」

 「…復習だけですか?予習はしないんですか?」

 「うん笑 私、元々頭悪くてさ。めちゃ復習しないと授業の内容を理解できないんだよね。」

 「そう、だったんですね…。私、香澄ちゃんは地頭から良くてそこまで勉強しなくても苦労しない人だと思ってました」

 「いやいや笑 もうね、最初の方は何にもわかんなくてさ。本当にきつかったよ笑 まあ、今となっちゃいい思い出だけどね。こうして優香と勉強できてるし」

 「なんか、ごめんなさい。勝手に決めつけて、努力を否定したりしちゃって…」

 「いいのいいの!私が隠してただけだし、逆に優香に私の努力が伝わったのなら良かったよ笑 …さてとっ!そろそろ、勉強する?始めてから、かれこれ40分経っちゃったよ」

 「そ、そんなに経ってたんですか?気づきませんでした…。そうですね。始めましょう」

 会話をしすぎたことを反省しながら、私たちは勉強を始めた。香澄ちゃんはやはり、今日の授業の復習を徹底的にやっていた。私も彼女を真似して、今日の授業内容を自分なりにまとめて復習してみた。わからなかったところは香澄ちゃんに聞き、私もまた彼女に聞かれた問題について自分なりに応えてみた。二人でわからない問題があったときは、二人で考えて解いた。今まで一人っきりで黙々と勉強してきた私からすると、ただ一緒に勉強しているだけなのにも関わらず、新鮮で楽しいものだった。

 「「……。」」

 勉強を始めて2時間ほど経ち、太陽も沈みかけて来た頃、私の集中が切れてきていた。集中し直すために、私は目の前の彼女のノートを覗き込んだ。そこには数式とその説明がびっしりと書かれているも、色使いや配置が上手いからかすごく見やすかった。

 「…すごいな」

 私が思わず声を出してしまうと、頭上から香澄ちゃんの声が聞こえた。

 「どうしたの急に笑」

 「えっ?あっ、すみません。ちょっと、ノートがあまりにも見やすいもので…。邪魔ですよね。すみません」

 私が邪魔にならないように元の状態に戻ろうとした。けれどそれは香澄ちゃんによって阻まれた。彼女は私の頭のつむじをポチッと押してきた。

 「…?あの、香澄ちゃん?何してるんですか?」

 「ん〜?あっとね、つむじ押してる」

 「そ、それはわかるんですけど、」

 「いや、なんかあったからさ。優香、可愛いつむじしてんね笑」

 「…へ?ちょっ、可愛いつむじってなんですか!というか、勉強しますよ!」

 香澄ちゃんから謎につむじが可愛いと褒められ、困惑しつつも恥ずかしくて、頭上にある彼女の手を取り机の上に戻した。

 「ほらっ、やりましょ?あと1時間で最終下校時間になっちゃいますよ」

 「…そうだね笑 やろっか」

 慣れない感じに戸惑ってしまい、思わず香澄ちゃんとの会話を切って勉強に戻した。けれど彼女が私には少し寂しそうに見えたので、ずっと気になっていたことを聞いた。

 「あの、香澄ちゃん」

 「…ん?どうしたの?」

 「その、先ほど香澄ちゃんは、昔は頭が悪かったって言ってましたよね?」

 「う、うん。そーだけど…」

 「こういうの聞くのもアレな気がするんですけど、なんで勉強しようと思ったんですか?その、この高校はかなり頭が良くないと入れないですよね?全国でも偏差値的には高いところにありますし…、そこまで勉強しようと思えた理由って聞いてもいいですか?」

 「…!り、理由かぁ〜…」

 「あっその、嫌なら全然いいんです!ただの好奇心なので」

 「違う違う笑 そーじゃなくてさ、その、なんだろう?強いて言えば、新幹線であった子がめちゃタイプだったから?」

 「……?えっと、なぜそれが理由に…?」

 「まあ、そういう反応になるよね笑 もっと聞きたい?」

 彼女はそういうと、ニヤッと不敵で悪戯っぽい笑顔を見せた。特に興味がないものの、私の集中力は戻りそうになかったので試しに聞いてみることにした。

 「はい。お願いします。」

 「フッフッフ笑 いいよ。聞かせてあげましょう」

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 中学2年の冬、市の企画で有名な高校を受験しようとしている生徒を学校がまとめ、その高校に校外学習のような形でお邪魔するというものがあった。私の学校もだったが、それ以外にも近くの高校や隣町の高校もその企画に参加していた。私もその生徒の一人だったけれど、他のみんなのように真面目に受験を考えている訳ではなく、ただ有名な高校の様子が気になって来ただけだった。

 【はぁ、移動長いな…、疲れてきた。】

 新幹線での移動中、駅弁やお菓子を食べ終わってしまい暇になった私は、ただぼーっと窓の外の景色が流れていくのを見ていた。

 「あの、席…」

 窓の外の景色にも飽きてきた頃、前の席の人に話しかけられた。この車両は市が用意してくれたもので、ここには全員学校は違えど同い年の子が乗っていた。

 「ん?なんですk…。」

 「あの、席、倒してもいいですか?」

 声が小さく聞き取れなかったので、私はその声の出どころである椅子の間に顔を近づけた。するとその前の席の子と目が合った。そしてその瞬間、私は"一目惚れ"という言葉の意味を理解した。

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