第2話 生活記録アプリ02

ピロピロ♪ピロピロ♪

 聞き慣れたアラームの音が部屋に響く。

 「ん〜?もう、朝か…」

 時刻は午前5時半。自分と姉の分の弁当を作るために私は眠気でボーっとする頭を必死に働かし、ベットのサイドテーブルにおいてあるメガネを手に取った。

 「はぁ…。今日のお弁当、何にしよう…?」

 制服に着替えてお気に入りの薄黄色のエプロンを着る。このエプロンは胸元に青い小さな花が刺繍されていて、去年の誕生日に姉からプレゼントされたものだった。

 「えっと、昨日の夜に作ったほうれん草のおひたしと…夕食の残りのプルコギ炒め、あとは適当にトマトとか入れればいっか。」

 私は素早くわっぱのお弁当に詰める。最近、お弁当の色合いやバランスをこだわってみているので、わっぱのお弁当と言うこともありとても綺麗にできた。

 「うん!めっちゃ綺麗にできた。レコードにあげよっと」

 私は姉と自分の分のお弁当を綺麗に並べ、写真を撮る。何枚か撮った写真を見比べ、綺麗に撮れたものをラフスタにあげた。すると、アップしてすぐにミストさんからいいねが来た。

 「反応、相変わらず早いな笑 ミストさんもこの時間起きてるんだ…。まあとにかく、学校行こっと。」

======================

 キーンコーンカーンコーン♪キーンコーンカーンコーン♪

 お昼休憩のチャイムがなった。クラスの人たちがよく一緒にいる友人とかたまり始める。そんな中私は一人自席でお弁当を用意し、お弁当の蓋を開けた。その瞬間、すごい勢いで誰かが走ってきた。

 「ねぇ!それって、自分で作ったんだよね!?」

 走ってきた人物の正体は、高校生活で関わることは絶対にないだろうと思っていたあの三部香澄だった。

 「ぇ、えっ!?」

 「だから!これ、自分で作ったんでしょ?」

 「そ、そうだけど…、何ですか?」

 「いやさ、めっちゃすごいなって思ってさ!料理できるのマジで尊敬するっ!」

 「えっ…!?というか、なんで私がこれを作ったって知って…?」

 「え?ああそっか。まだ言ってなかったね笑 そのさ、優香ちゃん、ラフスタやってるでしょ?」

 「は、はい?そう、ですけど…、ってもしかして!」

 「そうそう!私がミスト!」

 「そ、そうだったんですか…。知りませんでした…。」

 私は積極的にグイグイくる三部さんに多少動揺しつつも、何とか受け答えを終わらせ、会話を終わらせた。

 【何だったんだろう…?にしても、一生関わらないと思ってた人との初会話がこれとは…、流石に突然すぎだな笑】

 私は内心苦笑しつつも、お弁当を食べ始めた。いつも通り何も考えずに食べようと思ったものの、ミストさんの正体が三部さんだと分かった今、彼女のラフスタの内容が気になってしまい私はスマホを手に取りアプリを開いた。

 【…!こ、これって…?】

 ラフスタは生活の記録をすることができるアプリだ。もちろん、自分の起床時間や就寝時間の他に、学生は自分の勉強時間を記録することもできる。だからこそ、私は目の前の情報に頭が追いつかなかった。ミストさん、改め三部さんの生活時間記録を確認したところ、彼女の平日の勉強時間が全て6時間を越しており、遊び歩いていると思っていた休日も常に7時間は勉強していた。

 【そ、そんなに勉強してたなんて…。全く何の努力もしていないって思ってたのに…。こんなんじゃ私、勝てるわけないよね…笑 ってそうじゃなくて、彼女のレコードを見てみようと思ってたんだった…笑】

 気を取り直して私が彼女のレコードを見てみると、さらに情報過多なものが載っていた。そこには茶色かったり黒かったりする謎の食べ物らしきものやコンビニ飯が並んでいた。

 「ひ、ひどい…」

 あまりの衝撃に声が出てしまい、唖然としていると背後からまたも突然声をかけられた。

 「ひどいってなんかひどくない?笑 まあ確かに私、料理は苦手だけどさ?結構最近頑張ってる方だと思うけど?」

 「頑張ってるって…。こ、これが!?これ全部焦げてるじゃないですか!火加減どうなってるんですか!?て言うかこんなものばかり食べてるんですか?!体壊しますよ!?」

 私はその衝撃の大きさが故にいつもなら絶対にありえないほどの大声と早口になってしまっていた。

 「ちょっ…笑 てか、優香ちゃんそんな風に喋れるんじゃん笑 なんか意外っていうか…料理、そんなに好きなんだね笑」

 「えっ…?あっ…すみません。ちょっと、冷静さをかきました」

 「いいよいいよ笑 んでさ、一個お願いがあって。」

 「…?何ですか?」

 「そのさ、そのお弁当のおかず、ちょっと食べてみたいなって…。図々しいのは分かってるんだけど、ずっとレコードに上がってるご飯の写真が美味しそうでさ…。一個だけ!一個だけだから、食べてみたいなぁ…?」

 そういうと彼女は手を自分の前で合わせてこちらを仔犬のような上目遣いで見てきた。

 「は、はぁ…?まあ、いいですけど…」

 「まじ!?やった!私、ずっと食べたいなって思ってたの!めちゃくちゃ嬉しい!」

 「その、このおひたしでいいですか?まだ箸つけてないのがこれしかないので…」

 「うん!優香ちゃんが作ったものならなんでも食べてみたいから!それ、食べてみたい!」

 「じゃ、じゃあ…どうぞ。」

 私は使っていた箸の反対側でおひたしを取り、お弁当の蓋に乗せた。するとすぐに三部さんは、自身のカバンから割り箸を取ってきておひたしを口に入れた。

 「…お、美味しい!何これめちゃくちゃ美味しいじゃん!こんな美味しいおひたし作れるとか天才すぎ!」

 「えっあ、ありがとうございます…?」

 彼女があまりにもまっすぐに美味しいと感想を言うので私は何故か恥ずかしく感じてしまい、目を逸らした。

 「そのさ、またちょこっと食べにきてもいい?私いつもコンビニで同じサイドウィッチしか食べてなくて…。」

 私は今さっき見た彼女のレコードを思い返し、少し考えた。

 「…はぁ。わかりました。いいですよ」

 「やっぱりだめ…っていいの!?まじ!?やった!!」

 彼女はとてつもなく明るい笑顔で喜び、私の目の前で小さく跳ねた。その日から私と彼女の奇妙な約束の日々が始まった。

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