第1章(2)
その絵を描いてから半年がたった。彼は絵が描けなくなった。ただ、彼の描いた絵は様々なところで評価され、日本一と言われている賞まで受賞した。だが、もう彼の心が満たされることはなかった。絵を描くことすら出来なくなり、生きる希望を失いかけていた。その時、あの手紙のことを思い出した。思い返してみると、あの手紙をきっかけに絵を描き、そして絵が描けなくなった。実はあの日、絵を描いたあと何を思ったか手紙をゴミ箱の中から取り出し、保管していたのだ。
『あなたの力で、この国を変えませんか』
改めて見てもどういう意味なのかさっぱりわからなかった。この国を変えるために自分の人生を捧げる。そう彼は決めた。まるでその言葉に操られるかのように。だが彼が生きる希望を持つには、そうするしかなかった。そこからすることは、簡単だった。まずこの国を変えるには何が必要だろうかと考えた。変えるためにはまず、自分が総理大臣になるべきだと思った。だが、そんな学力が彼にあるはずもなく、壊滅的な夢だった。そこで思いついたが、テロだった。テロを起こして、自分がこの国のトップに立てば間違いなく政治を動かすことが出来る。政治を動かすことが出来るとなれば、確実にこの国を変えることが出来る。そう思った。
それから彼はテロの計画を始めた。爆弾の作り方、自分が犯人だとバレないためにはどうしたらいいのか。完璧な計画を求め、試行錯誤を繰り返した。そして、テロを起こすことを決心したあの日から2年が経った。テロを実行する日も決め、あとはその日が来るのを待つだけだった。すると、また彼の元に手紙が届いた。その手紙を見た瞬間、彼は一気にあの日のことを思い出した。そう、あの絵を描いた日。確実にあの日から彼の人生の歯車は狂い始めた。そしてその手紙にはこんなことが書かれていた。
『おつかれさまです。こちらをお使いください』
そんなメッセージと一緒に、封筒の中には狐のお面が入っていた。誰がこんなことをしているのか、どうしてこの計画を知っているのか、普通ならそう思うはずだが、彼はもう普通の人間には戻れなかった。当たり前のようにそれを受け入れ、計画実行の日を待った。
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