第5話『Ωより来たりしもの』

第5話『Ωより来たりしもの』



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「この球体……静止しているようで、内部では空間が“回って”いるにゃ」


ユイは観測モニターに表示された“黒い球体”を睨みつけながら言った。

とん太は額に汗を浮かべながら言葉を探す。


「それって……ブラックホール?」


「にゃい。これはΩ型位相空間構造体――つまり、“宇宙そのものの反転写像”にゃ」


「お、Ω……? そんな概念、理論上すら……!」


「存在しなかったにゃ。でも、今ここにある以上、理論を創るしかにゃい」


ユイは指先で空中に数式を書きはじめる。空間に立ち上る数式は、やがて円環を描いて収束していく。


「……構造式、解析完了。やはりこの物体は“Λ”とは別系統。外宇宙性知性構造体Ωで間違いにゃい」


「外宇宙……!?」


真理が低く息を吐く。


「それって、“宇宙の外側”に存在してる何かが、Λを通じてこっちを見てるってこと……?」


「正確には、Λが“観測された”にゃ。ΩはΛの内部にある重力子ネットワークを通じて、わたしたちの宇宙へ“接続”してきたにゃ」


「……接続? この球体、“ポート”なの?」


「にゃ。通信じゃない。“対話”にゃ」


その言葉を聞いた瞬間、研究所全体に低い“音”のような波動が走る。

誰も何も口にしていないのに、脳内に直接響く声が届く。


――ヨブンノセイメイヘ、トウチャクシマシタ。


とん太が叫ぶ。


「い、今の……翻訳不可能な“意味”が脳に直接……!」


「Ωが言語を超えて、わたしたちに“メタ概念”で話しかけてるにゃ」


ユイは静かに立ち上がる。ぬいぐるみを胸に抱いたまま、球体の前に歩み出る。


「――わたしが応答するにゃ。観測者Ωへ。ここはΛを中核とした観測宇宙。“ヨブンノセイメイ”代表として、わたしが“対話”を受けるにゃ」


球体が微かに脈打ち、再び“意味の波”が流れ込んできた。


――アナタハ、カコヲ、シッテイル。アナタハ、ミライニ、ナリウル。


ユイの額に汗がにじむ。


「……にゃ。これは、“わたし自身への問い”にゃ。Ωは、わたしの存在を試している」


「えっ、試す……?」


「そう。“重力子の記憶”を継ぐ者として、わたしが本当に対話に値するか――観測者Ωの審判が、今始まったにゃ」



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次回:第6話『記憶を継ぐ観測者』

ついにユイの過去と“量子重力観測者”としての使命が明らかに――!?



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