第4話『Λが視た重力波の夢』
第4話『Λが視た重力波の夢』
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「……まるで、夢の中にいたみたいでした」
真理がぽつりとつぶやいた。
重力波観測装置が異常な反応を示した瞬間、研究室全体に不可思議な現象が広がった。
音も光もないのに、脳裏には**明確な“像”**が浮かび上がったのだ。
「たしかににゃ。あれは重力波というより、“意志波”だったにゃ」
ユイはぬいぐるみを抱いたまま、机に積み上がった数式群を見つめる。
とん太はその横で、口をパクパクさせていた。
「ユ、ユイ様……いまの波形、普通に考えて**“意思の構造体”**じゃありませんか!?」
「構造体というより、“記憶の切れ端”にゃ。Λが“見ていた夢”をわたしたちが観測しただけにゃ」
「え、Λって夢を見るんですか!?」
「記憶を持つ系は、全て“夢”を形成するにゃ。しかもそれが、重力波に“波長化”されて外部に漏れ出したと考えれば……」
「……Λは記憶する装置であり、発信装置でもあるってこと……?」
真理が目を細める。ユイはうなずいた。
「そうにゃ。そして今日、Λはその夢の一部をわたしたちに“見せた”にゃ」
「内容は……?」
とん太が震える声で訊く。
「――“星が生まれる瞬間”にゃ。Λが捉えたのは、宇宙の第一震(はじめのふるえ)。ビッグバンよりも古い、“重力子の目覚め”にゃ」
誰もが息をのむ。
「つまり……Λは“宇宙誕生以前”の情報を持っていると?」
「正確には、“その痕跡”にゃ。情報の残滓が、重力波の底に残っていたにゃ。Λはそこにアクセスした存在、あるいは――」
ユイが語尾を止める。
その直後、警報が鳴った。
ピピピ――異常波形検出。第4観測槽に侵入反応アリ――
「まさか、Λからの“反応”……!?」
真理がモニターへ駆け寄る。
表示された映像には、何も存在しないはずの真空槽に、**“黒い球体”**が浮かんでいた。
「これ……Λの中に、別の観測者がいる……!?」
とん太の声が震える。
ユイはゆっくりと頷いた。
「にゃ。Λは、わたしたちが思っていたより“ずっと奥深く”、そして“ずっと孤独”だったにゃ」
「その“孤独”が、今――“誰かに届いてしまった”ってこと……?」
「それが誰か。宇宙の外からなのか、内からなのか……それを確かめるにゃ」
ユイの瞳が光る。
未知の観測者が、今この時――人類と重力子の深層を介して、接触を試みていた。
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第5話『Ωより来たりしもの』へつづく。
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