2026

初売り福袋【クウ】

 初売りセールでモールは大賑わいだった。テナントごとに福袋を売り出しているので、目につく店を回るだけでどんどん荷物が増えていく。

「いくつ買ったら気が済むんですか、先輩」

 同じく紙袋を手に提げた真白が追いかけてきてため息をついた。律儀なこの後輩は、自主的に荷物持ちを買って出ている。掌が痛くなってきたのか、真白は紙袋を揺すり上げるように持ち直した。

「服ばかりこんなにどうするんです? 好みじゃないのも入ってるかもしれないのに」

「そしたらカイにでもやろっかな」

「弟さん? もらってくれますかね」

「私とカイって服の好み真逆でしょ。だから私が好きじゃない服はカイが好きなはずというわけで」

 私の論理に後輩は「世の服のタイプが二種類だと思ってます?」と呆れたように目をすがめた。

「そういや真白も私と服のタイプ違うね」

「急用を思い出したので帰っていいですか」

 逃がすわけもなく私は真白のコートをつかんだ。ちょうど目に入った店があったので、手綱みたいに引っ張って真白の体をそちらに向かせる。

「真白も何か買えばいいじゃん。ほら、珈琲の福袋だってよ」

 真白は珈琲党だけど、豆にこだわりはないらしい。ドリップバッグの詰め合わせなんてまさにぴったりの商品だ。興味深げにうなずいた後輩は、

「そこで待っててください。迷子にならないでくださいね」

 と言って店に吸いこまれていった。先輩を何だと思ってんだ。

「戻りました」

「おかえりぃ。……袋じゃなくて箱を持ってる」

 ソファでスマホをいじっていると、真白がさっそうと戻ってきた。手にはたしかに珈琲ショップの袋を提げているが、もう片方の手に紅白市松柄の直方体を抱えていた。

「珈琲の隣に売ってました。ワインの福箱、だそうですよ」

「ワイン~? また自分の肝臓を過信して。酒弱いんだからアルコール度数見て買えと言うのに」

「自分に飲めない奴だったら先輩にあげますね」

「違った。先輩の肝臓を私物化してるだけだった」

 私はソファに置いた紙袋を腕に掛け、立ち上がって後輩を見上げた。

「私好みじゃない服があったらホントにもらってもらうからな」

「聞こえませんね」

「レディースは勘弁してやる」

「それは、確認するまでもない大前提では?」

 焦ったように振り向く後輩のコートを再びつかみ、「なんか食べられるとこ行こう」と引っ張っていく。そろそろご飯処も空いてきた時間だ。渡り廊下を通りかかると、展望デッキになっているそこでは何組もの客が窓辺で立ち止まっていた。

 どんより曇っていた空から、いつの間にか雪が降っている。真白が自分たちの大荷物を見下ろし「車で来て正解でしたね」と呟いた。

「こんな大粒の雪、今年初めてじゃないですか」

「今年は何だって初めてだよ」

 今シーズン初めてと言いたかったんだろうけど、わざとからかうと真白は肩をすくめ、何でもないように付け足した。

「そういえば言ってませんでした、先輩」

「何をさ」

「今年もよろしくお願いします」


(2026/1)

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