ナンパ撃退法【真白】

 駅前市街地のバスターミナルで待ち合わせた相手を探していたところ、曲がり角の向こうから不穏な話し声が聞こえてきた。数人の男のふざけたような声。野次馬根性で眺めに行くと、自動販売機の前で囲まれていたのは探していた青梅ヶ原先輩で、あっと声を出しそうになった。何絡まれてんだあの人。

 先輩は時間を稼ぐようにゆっくりとした動作で自販機の取り出し口に手を伸ばし、拾い上げたコーラのペットボトルをクルクルと指の上で回した。背後で通せんぼする耳障りな声など聞こえていないかのように。ただロイヤルブルーの短髪を少し揺らして振り返ると、角から見ていたこちらに気がついたようでその顔がパッと華やいだ。仕方ないな。

「あの。その人に何か用ですか」

 ため息をつきながらコンクリートの床に足を踏み入れる。男たちが振り向いて、あからさまにがっかりした表情を浮かべた。

「なんだ、友達って男かよ」

「彼氏?」

「そうです」

「いや嘘じゃん」

 まあ嘘だが、無駄な嘘をつかされたことに腹が立った。

「大人のくせに高校生にちょっかい掛けて、もしかして友達がいないんですか」

「ふはっ」

 噴き出したのは先輩だ。ケラケラと楽しそうに笑う。ウケた。よかった。いやよくない。

「こいつ」

 ぐいと後ろ髪をつかんで引っ張られた。先輩の前にも別の男が立ちはだかり引き離される。先輩は口元に笑みを乗せ、目の前の男の手に自分の手を重ねた。

「まあ、まあ」

 小馬鹿にしたような声が言う。

「私のために争わないで、よっと」

 ボキッ。

 ……ボキ?

 いやまさかな、と思って様子を見ていると、先輩に手を握られていた男が悲鳴を上げてのたうちまわった。あ、このリアクションは本物だ。本当に指が折れている。

「あははっ」

 もう一人の男には顔面にペットボトルを投げつけ、先輩は後輩の手を取って駆け出した。ちょうど入ってきた路線バスに行き先も確かめずに飛び乗ると、最後部座席から小さくなって行くナンパ男たちに手を振ってみせる。こちらは思わず呆れてしまって、髪を結び直しながら先輩の余裕そうな顔に文句を言った。

「指、折りました? なんてことするんです」

「別にいいでしょ、慰謝料みたいなもんだよ」

「自分の外見わかってますか? 青髪の女子中高生ってだけで同定余裕ですよ。フードとか帽子とかなかったんですか」

「説教の方向性が予想と違うな。真白、もしかして道徳赤点だった?」

「道徳にテストはありません」

「私より倫理観低い奴とニコイチになんの初めてだな〜」

 困ったように、それでいてどこか楽しそうに先輩が座席にもたれかかる。その隣に座った自分は流れて行く窓の景色を見ながら、まったく役に立てなかったことに一抹の悔しさを感じていた。友達を格好よく助ける柄ではないが、今後も棒立ちというのは情けない。

「指ってどうやって折るんです」

「道徳で満点取ったら教えたげるよ」

 耳慣れないバス停名を告げる車内放送が流れ、先輩が降車ボタンを押した。繰り返すが、道徳にテストはない。


(2013/12)

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