2014
ゴディバチョコレート【真白】
「やっほー、みんな。チョコもらいに来たよ」
青梅ヶ原クウ先輩(※停学中)がバレンタインチョコをねだりに部室に現れた。教師に見つかっては面倒なので流れるような連携でドアを閉め、部員たちは声が漏れないよう静かにざわつきだす。
「よっ勇者!」「ケガ大丈夫?」「初停学おめでと」「退学なんないよう気を付けてね~」
秋津川高校はまじめな進学校で、暴力沙汰は河童より珍しい。青梅ヶ原先輩がやらかすのはいつものこととはいえ、レアな事態にみんなの声は上ずっていた。先輩が他校の生徒を拳二発で病院送りにしたのはつい昨日のことだ。
彼氏に暴力を振るわれている、という後輩女子の相談に乗っているうちに、そういうことになったらしい。
「弱きをかばうとはまるでゴディバだね」
高級チョコを青梅ヶ原先輩の口に放り込みながら、松原先輩が微笑んだ。
「チョコレート?」
「そう、甘くて苦くて大人だ」
ゴディバといえば横暴な夫から町の住民を守るために身を呈した乙女の名だ。腕力で反撃したわけではないので比喩として不適切だが、弱きをかばうという点では一致している。バラをかたどったチョコレートを噛み砕く青梅ヶ原先輩は、チョコレート会社の社名としか認識していないようだけど。
実のところ、今日は部活が休みの日だ。惰性で部室に集まっても演劇の練習に励むとは限らず、松原先輩はバレンタインチョコを配ると義理は果たしたとばかり早々に立ち去った。青梅ヶ原先輩も部室の隅の机に陣取り、誰かが持ち込んだ雑誌のクロスワードパズルに勤しみ始めた。しばらくしてから覗き見ると、『夫の圧政をいさめるために裸で馬に乗った女性』の欄に『ゴディバ』と綺麗な字で書かれている。知ってんじゃんか。
「先輩って、なんで無知なふりをするんです?」
尋ねると、先輩はきょとんとして首を傾げたが、しばらくしてから思い至ったらしい。「これ?」とゴディバの四文字を指さす。
「さっきのあれはさ、ゴディバよりチョコレートって呼ばれる方が嬉しいじゃん」
「普通の人はチョコレートを誉め言葉として受け取りません」
ため息がこぼれる。なんだか目が離せない。
(2014/2)
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