囚人のジレンマ【真白】
「青梅ヶ原クウ先輩が誘拐されました」
情報屋の面々を呼び集め、私は口火を切った。佐倉さんに橘さん、そして黒子たちが事態に驚いて息をのむ。
「先ほど犯人のアジトから、この連絡が」
スマホの録音を再生すると、わずかにノイズの入った音声が流れ出した。
『あ、真白? ごめんちょっと誘拐されちゃったんだけど、誘拐犯のアジトをうっかり壊滅させちゃってさ、このあとどうすればいいと思う?』
「全然無事じゃねえか心配させやがってアホ!!」
佐倉さんが立ちあがって怒鳴った。心配してくれる辺り意外と人情家だよな。背が高く、サングラスをかけていて威圧感があるのでわかりづらいが。
「こうして集まってもらったのは先輩救出作戦のためです」
「必要なくね? 帰ろうぜ。解散」
「アジトの場所がわからないんです。どこかの孤島のようなんですが、先輩にしてもそれでは帰りようがなくて」
勢い余って佐倉さんが再生を止めていなければ、先輩がそう話していたのだが。
はいっ、と手を挙げたのは橘さんだ。どうぞ、とうながすと明るい茶髪の青年は名案のように言った。
「誘拐犯たちに聞けないんですか?」
「聞いても答えません。まだ仲間が島の外にいるらしくて、そいつらが帰ってくることを期待して粘っているようですね。先輩も、なるべく早く口を割らせようと工夫しているようなんですが」
「へえ。工夫って?」
佐倉さんが興味深げに尋ねる。
「四人を別々の小部屋に閉じ込めて、それぞれにアジトの場所を尋ねているそうです。そのとき四人ともに同じ条件を聞かせて」
「なんか聞いた話だな」
「四人とも黙っているようならこちらは何もできないけど、もし一人だけが口を割ったらその人だけ助けてあと三人は海に沈める。でも口を割ったのが二人以上だったら全員海に沈める、と」
「思い出した。囚人のジレンマだ。あいつなんでリアルで思考実験やってんだ」
「とりあえず先輩にはそれぞれの扉にA~Dまでの記号を振って誰が初めに口を割るか観察するよう伝えてあります」
「おまえも面白がってんじゃねえよ」
そのときスマホが鳴った。ワンコール終わらないうちに通話ボタンを押す。
「はい」
『Dさんが口を割ったよ! その後続けてCさん、Bさん、Aさんが情報をくれた。全員海コースだね』
「それはよかった。海水浴を楽しみな、と伝えてください」
『ただ四人の情報に矛盾があってさ。指摘したら、AさんいわくBさんの言葉が真実で、BさんいわくCさんの言葉が真実だって。Cさんが言うにはDさんが嘘をついていて、でもDさんはというと自分以外の三人とも本当のことを言っていないって』
「また別のパズルになってんじゃねえか」
「まあ、嘘でも本当でも構いませんよ」
情報は情報だ。どんな嘘をついたのか、ということでさえも手掛かりになる。
聞き出した内容から島のありかを特定するまで五分とかからず、私たちはヘリコプターで急行した。先輩はアジトの厨房を漁ってアイスを食べていた。
(2025/8)
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