メイドの話【真白】
新しく雇ったメイドの態度が悪い。どうにか穏便に追い出せないだろうか?
そんな相談を持ち込む先として適切かどうかわからないが、家人に聞いた『よろず相談窓口〈クーハク〉』を訪ねると、出迎えたのは後ろ髪をひとつに束ねた若い男だった。用件をうながされて、私は我が家の事情を語った。
「うちのように、住み込みの使用人を抱える家はもう少ないのだろうな。伝統ある厳格な家風なんだ。だが一週間前に雇った使用人は、それを理解していなくて」
「なるほど。しかし一週間とは。もうしばらく様子を見てもいいのでは?」
日野真白、と名乗った相談員は、退屈そうに伏せていた目をこちらに向けた。
見透かすような目つきに思わず息を呑む。しかし日野はそれ以上追及せず、「いいでしょう」とうなずいた。
「三日もあれば、その人が自分から暇を申し出るように仕向けられます。それでよろしいですね?」
いったいどんな手を使う気だろう。尋ねるのも恐ろしく、私は逃げるように事務所を後にした。
■ ■ ■
「というわけで、三日以内にそこをやめてください。いいですよね、先輩?」
「ええ~!!! 真白、勝手に決めないでよ!」
電話越しに先輩の声が耳をつんざく。私はスマホを少し耳から離し、眉をひそめた。
「だいたい一週間でクレームが来るって、どんな働き方してたんですか」
「情報収集には懐っこさが必要なの、そして懐っこさは馴れ馴れしさと紙一重で……クラシックでパーフェクトなメイドだって、やろうと思えばできるから!」
「それでクビにされてちゃ意味ないでしょ。怪しまれたんじゃないですか?」
「ちょっと嗅ぎまわりすぎたかな。横領の証拠を堂々と自宅に置いといて、そんなとこは慎重なんだ。でも三日かあ~。もうちょっと延ばせない?」
ガシガシと髪をかき回す音がする。黒髪のかつらが外れてしまうだろうに、構っていられないらしい。
「まだ時間が必要でしたか? いい頃合いかと思ったんですが」
「証拠集めは十分なんだけどさ。今週末フルーツパーラー行こって職場の子と話してて」
「そんなの退職してから行きゃいいでしょ」
「イヤだよ、絶対気まずいじゃん~!!」
先輩が悲痛な声を上げ、私はまたスマホから耳を遠ざけた。
(2025/5)
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