2025

夜間訪問【リク】

 青梅ヶ原家の屋敷は農村のど真ん中にある。

 妹と弟が実家を離れてからは一人暮らしなのでますます静かだ。そのせいか、最近やたらと物音に敏感になってしまった。深夜二時。目を覚ました。

「……泥棒か?」

 玄関先に誰かがいる。しかも引き戸を開けて入ってきた。

 俺は布団から身を起こすと、押し入れから釘バットを取り出した。高校生の頃、妹と弟が誕生日プレゼントにくれた奴だ。あいつら俺を何だと思ってたんだろう。

 足音を忍ばせて廊下を進み、玄関を覗く。そこには女が立っていた。

 むき出しの腕。淡い色のドレス。そして、首から上がない。

「!!」

 思わず釘バットを投げつける。

 しかし女はバットをスカーフで巻き取って減速させると、あっという間に床にたたきつけた。続いて、抗議の声を上げる。

「何すんのさ、リク! 攻撃すんなら一声かけてよね」

「クウ!?」

 黒いヘルメットが闇になじみ、頭がないように見えただけらしい。電気をつけることをようやく思いついてスイッチを入れると、ヘルメットを外した妹が頬を膨らませていた。

「ビビらせんなよ、幽霊かと思った。ってかおまえ、そのカッコ……」

 ドレス姿は見間違いではなかった。薄青色のひらひらが安っぽい電球の光の中で浮いている。

「中学んときの友達の結婚式だったの。実家に寄る気なかったから連絡しなかったけど、三次会のあと気づいたらこの時間でさ」

「そのカッコで深夜、バイク飛ばしてきたのか? 都市伝説でも作る気か」

「それには高速乗んなきゃ。とにかく、今から帰るの無理だから、泊めてよ」

 ケラケラ笑う妹は、もし酔っているなら警察直行コースなのだが、昔からイベントごとが好きな奴なので場の空気で浮かれているだけだろう。俺はエセ酔っぱらいに「布団は自分で敷けよ」と念を押した。

「こっちは明日仕事なんだから」

「私も明日仕事なんだよな」

「さすがに三次会断れよ」


(2025/4)

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