ハグの話【クウ】

 最近、考えていることがある。

 私は十七年の人生を通して、男の子を好きになったことがない。真白に対する気持ちもそうで、恋心とはどうも違う。友達だし、友達でいたいと思っている。

 考えること、というのはそこだ。つまり、友達なら、女友達みたいに飛びついてハグしてもいいんじゃないだろうか。真白とはクラスの女子よりつるんでるし、コミュニケーションの選択肢にハグや肩組みがないのが不自然なくらいなのだ。

 突然くっついたらギョッとするだろうけど……と、そこまで考えて気がついた。

「突然じゃなければいいのでは?」

 名案!


□□□


「真白! ハグしてい?」

 スポーツ選手の宣誓のように手を上げる私に、長髪細身の高二男子は驚いた視線を向けた。

「先輩がこんなこと言うはずがないな。ニセモノか?」

「本物だよ」

「本物の先輩は二人きりのとき、一人称が『吾輩』になるはずです」

「その私がニセモノだよ」

 疑い深い後輩は、少し考えて付け足した。

「ジャンケンで先輩が勝ったらいいですよ」

「あ、そこまではいいかな」

「えっ」

 親愛のハグに条件をつけられるのは違う気がする。そう思ってあっさり身を引くと、そっぽを向いていた真白がパッと振り返った。首の後ろで束ねた髪が勢いで跳ねる。

「いいんですか? 今なら必勝法を教えますよ。グーを出せば勝てます」

 急に食い下がり始めるな。そんなに先輩とハグしたいのか? ジャンケンなんて持ち出したのはツンデレって奴か。なぁんだそっか~。

「よっし、やろっか! じゃーんけーん――」

 ポン! 私はニッコニコでグーを出した。

 真白はパーを出した。

「痛っ。無言で肩パンしないでください。やめ、うわ、すげー連続で来ますね」

 私が怒りに任せて肩を叩き続けると、奴はよろめいてうずくまった。でも殴られたからというよりは、笑い顔を隠すためらしい。伏せた顔の下から低い声が断続的に漏れ聞こえる。

「いやあのさ、なんでだよ本当に」

「信頼に満ちた顔が可笑しくて……ふふっ」

 こいつの辞書には『信頼(名詞)裏切る物』とでも書かれているんだろうか。

「もう一回ジャンケンしてもいいですよ」

 顔を隠したまま真白が拳をかかげたので、私はその甲をつねってやった。


(2014/5)

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