第6話 記憶の代償
「代償?」
いえぞうの声が沈んだ。「世界を救うためには、家族の記憶すべてを捧げなければならない」
「家族の記憶…?」
「そう。この記憶の間に集められた、すべての記憶を。お父さんもお母さんも、おばあちゃんも、リツ自身の家族との思い出も…すべて」
リツは愕然とした。「そんな…それじゃあ、いえぞうは…」
「僕もね、消えるかもしれない。僕はこの家の記憶から生まれたんだから」
「そんなの嫌だ!」リツは叫んだ。「他に方法はないの?」
いえぞうは黙って光の粒子を動かし、小さな木の箱を実体化させた。それは父の仏壇の後ろにあったもの。
「これを開けてみて」
リツは震える手で箱を開けた。中には、手のひらサイズの青い結晶が眠っていた。母が異世界で受け取ったという「愛の結晶」だ。
「これが…」
結晶に触れた瞬間、リツの心に映像が流れ込んだ。母が異世界で儀式を受ける姿、父との幸せな日々、リツを産み育てる喜び…そして、母が病床で結晶を見つめながら涙する姿。
「お母さんは知っていたんだ」いえぞうが静かに言った。「いつか世界のバランスが崩れ、次の守り人が大きな犠牲を払わなければならなくなることを」
「だから、私を守ろうとしたの?」
「うん。でも運命は回り道をしても、やがて巡り会うものなんだね」
リツは結晶を握りしめ、考え込んだ。家族の記憶すべてを失うということは、いえぞうとの思い出も、母や父、祖母との大切な記憶も、すべて消えてしまうということ。
「いえぞう、私、どうすればいいの?」
「それは、リツが決めることだよ。でも、満月はあと三日しかない」
突然、記憶の間全体が揺れ動いた。天井から小さな亀裂が走り、光の粒子が不安定に揺れる。
「何これ?」
「世界の崩壊が進んでいる。もう時間があまりないんだ」
リツは結晶を胸に抱き、階段を上った。頭の中は混乱していた。世界を救うために、家族の思い出をすべて失う。それは、リツにとってあまりにも大きな犠牲だった。
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