第5話 選ばれし家族と世界の危機
光の粒子が集まり、一人の女性の姿を映し出した。
「お母さん!」
リツは思わず駆け寄った。そこには確かに母親の姿があったが、見知らぬ場所で見知らぬ衣装を身につけていた。母の周りには、リツの知らない人々が集まっていた。皆、長い耳と澄んだ瞳を持ち、異世界の住人らしき姿だった。
「あれは…ここじゃなくて、この異世界のどこかだよ」
いえぞうの声が静かに説明する。
「実はね、リツのお母さんは、この異世界と深い繋がりがあったんだ。遠い昔、この世界と元の世界は一つだった。けれど、争いが絶えなかったある時代に、世界は二つに分かれた。そして、二つの世界を見守る『記憶の守り人』という役目が生まれたんだ」
「記憶の…守り人?」
「うん。世界の記憶を守る人たち。この異世界では、家や木や石といった、長い時を経たものに意識が宿ることがある。そして、元の世界では守り人の家系が代々その記憶を守ってきた。その家系こそが、リツのお母さんの血筋なんだよ」
映像が変わり、母が異世界の人々と何かの儀式らしきものを行っている様子が映し出された。母の手の中には、小さな結晶が光り輝いていた。
「あれは『愛の結晶』。守り人の証だよ。お母さんはこの異世界を訪れて、守り人としての力を受け継いだんだ。そして、その結晶をこの家に持ち帰って…」
「でも、どうして?お母さんがそんな大事な役目を持っていたなんて、一度も聞いたことない」
リツの問いに、光の粒子がまた形を変え、今度は母が病床で横たわる姿を映し出した。母の枕元には父がいて、何かを真剣に話し合っている。
「守り人の力は、代々女性に受け継がれてきた。お母さんが亡くなる前、本当はリツに伝えるつもりだったんだ。でも、リツがまだ小さかったから…」
映像の中で、母は父に何かを手渡していた。それは小さな木の箱だった。
「あの箱、知ってる!お父さんの仏壇の後ろに…」
「そう、その中に愛の結晶が眠っているんだ。お母さんは、リツが大きくなったらすべてを伝えるよう、お父さんに約束させた。でも、お父さんもその後すぐに…」
悲しい記憶がよみがえり、リツの胸が締め付けられる。
「それで、おばあちゃんが知っていたの?」
「うん。おばあちゃんは全部知っていた。でも、リツをこの運命から守りたかったんだ。だから敢えて黙っていた。けれど、おばあちゃんが倒れた夜、この家は選択を迫られたんだ」
「選択?」
「この家を守るか、リツを守るか。おばあちゃんの意識が薄れていく中、この家はリツと共に異世界へ飛ぶことを選んだ。それが、あの雷の夜だった」
リツの目に涙が浮かぶ。祖母と離れ離れになってしまったことへの後悔が胸を刺す。
「でも、おばあちゃんは…」
「大丈夫、リツ」
突然、部屋の光が暖かく脈打ち、祖母の優しい声が響いた。
「おばあちゃんの記憶は、この家の中にしっかりと生きているよ。だからこうして話すことができる」
「おばあちゃん…!」
「リツ、あなたはもう一人じゃない。この家にはたくさんの家族の想いが詰まっている。その想いがいえぞうを生み出し、あなたを守ってくれる」
祖母の声に、リツは涙をぬぐった。
「でも、どうして今、このことを教えてくれたの?」
いえぞうの声が急に沈み込んだ。光の粒子が不安げに揺れ動く。
「それはね…世界が壊れかけているから」
「壊れる?どういうこと?」
「守り人がいなくなってから、二つの世界のバランスが崩れ始めているんだ。見てごらん」
光の粒子が集まり、窓のような形を作り出した。そこには、異世界の風景が映し出されている。空はかつての鮮やかな紫色ではなく、所々に黒い裂け目が走っていた。木々は色を失い始め、風景全体が少しずつ歪んでいる。
「このままでは、この世界も、リツたちの世界も消えてしまう」
「どうすれば…」
「満月の夜、愛の結晶の力を使って、世界を繋ぎ直さなければならない」
リツの顔に決意の色が浮かぶ。
「私にできる?」
「できるよ。でも…」いえぞうの声が躊躇う。「代償がある」
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