第3話 訪問者たちと“増える家族”
リツはいえぞうの縁側に座り、異世界の夕暮れを眺めていた。築100年の古民家が異世界に転移して以来、すでに1ヶ月が経っていた。最初は怖かったけれど、いえぞうという不思議な存在のおかげで、少しずつこの世界に慣れてきていた。
「リツちゃん、寒くないかい?」いえぞうの声が古い柱から優しく響いてきた。
「大丈夫よ、いえぞう。まだ暖かいから」リツは微笑んだ。
「それにね、空の色がきれいで見とれちゃったの」
異世界の夕焼けは地球とは違い、紫や青が混ざった不思議な色彩だった。遠くには見たこともない形の山々が連なり、時折キラキラと光る鳥のような生き物が飛び交っていた。
「でもね、リツちゃん。この世界の夜は地球より冷えるからね」いえぞうは少し母親のような口調で言った。
「そろそろ夕食の準備をしようか。今夜は何が食べたい?」
「うーん、そうだね...」リツが考えていると、いえぞうの外壁がぴくりと震えた。
「誰か来たよ」いえぞうが告げた。「門のところに何かいる」
リツは立ち上がり、玄関へと急いだ。開け放たれた門の向こうに立っていたのは、リツの背丈ほどの奇妙な生き物だった。全身が青緑色の苔のような毛で覆われ、大きな黄色い目をぱちくりとさせている。手には小さな布袋を持っていた。
「こ...こんにちは?」リツが恐る恐る声をかけると、生き物はびくりと跳ねた。
「ま、まさか話せるとは!あなたは何者?この光る家に住んでいるの?」生き物は甲高い声で尋ねた。
リツは少し混乱した。「光る家?」
「ええ、この家はときどき金色に輝くの。私たちの世界ではとても珍しいことなんだ。私はモスという名前の森の守り人。この近くの森に住んでいるんだ」
「あ、私はリツ。この家は...いえぞうっていうの」
モスは驚いた表情を見せた。「家に名前があるなんて!あなたたちはどこから来たの?」
「実は...」
その晩、リツの家には初めての客人が泊まることになった。モスは森の草木と話せる不思議な力を持ち、自分が育てた薬草をリツに分けてくれた。
「これを煎じるといい薬になるよ。風邪を引かないように」モスが教えながら、リツと一緒に台所に立っていた。
「ありがとう、モス!でも、どうして私たちを怖がらないの?突然現れた家なのに」
モスは柔らかな笑みを浮かべた。「この世界には不思議なことがたくさんあるからね。それに...」モスは言葉を詰まらせ、「実は私、仲間がいなくて寂しかったんだ。家族もいないし」
リツはモスの言葉に心を打たれた。自分も同じ気持ちだったから。両親を亡くし、祖母と二人だけの生活。そして今は異世界で、祖母の声は時々いえぞうから聞こえるだけ。
「モス、よかったら...ここにいてもいいよ」リツは思い切って言った。「私も寂しいから」
「本当に?」モスの目が輝いた。
「ああ、もちろんだとも!」いえぞうの声が台所中に響き渡った。「モスさん、いつでも歓迎するよ」
その瞬間、台所の壁に描かれていた花の模様が、ふわりと浮かび上がり、実際の花のように色づき始めた。モスが驚いて目を見開く中、花は完全に立体化し、優しい香りを放ち始めた。
「こ、これは...!」モスが感嘆の声を上げた。
「いえぞうの魔法だよ」リツは説明した。「大切な記憶を形にできるの」
「信じられない...」モスが花に触れると、花は彼の指先で踊るように揺れた。
「これは...リツちゃんのお母さんが好きだった花なんだ」いえぞうが静かに言った。「モスさんが来てくれて、また思い出せたよ」
その夜、リツとモスは花の香りに包まれながら一緒に夕食を食べた。モスは森での生活や、この世界のことをたくさん教えてくれた。リツも地球のこと、自分の家族のことを話した。
寝る前、リツは気づいた。いえぞうの床板がいつもより少し暖かいことに。
「いえぞう、どうしたの?」
「嬉しいんだよ、リツちゃん」いえぞうの声は静かだけど、喜びに満ちていた。「家族が、また一人増えたみたいだから」
それから数週間が経ち、リツとモスは毎日森へ出かけるようになった。モスは森の言葉を教えてくれて、リツは少しずつ植物たちと会話できるようになっていった。
ある日の午後、二人が森から帰ってくると、いえぞうの前に見知らぬ男性が立っていた。背が高く、全身を黒いマントで覆い、手には長い杖を持っている。
「リツちゃん、気をつけて!」いえぞうが警戒心を込めて言った。
男性はくるりと振り返り、リツたちを見た。その顔は若く、穏やかだったが、目は異様に古く、何かを見透かすような鋭さがあった。
「やあ、君がこの家の住人かい?」男性は優しげな声で尋ねた。「私はラーヴィ、旅の魔法使いだ。この家から漏れる不思議な魔力に惹かれてやって来た」
「魔力?」リツは首を傾げた。
「ああ、この世界では珍しい種類の魔法だ。記憶と感情が織りなす魔法...」ラーヴィは家の柱に触れて、目を閉じた。「興味深い。家そのものが意識を持っている」
「いえぞうのことですか?」リツは少し警戒しながらも質問した。
ラーヴィは笑った。「なるほど、名前まであるのか。素晴らしい」
「何が目的なんですか?」モスが前に出て、リツを守るように立った。
「心配しないで」ラーヴィは両手を上げて見せた。「悪意はない。ただ、知識を求めて旅をしているだけだ。この家...いえぞうの魔法について学びたいと思っているんだ」
リツはまだ少し不安だったが、いえぞうが急にリツの耳元でささやいた。「彼の言うことは本当みたいだよ、リツちゃん。それに、彼の知識は私たちの役に立つかもしれない」
「わかった」リツは少し迷った後、決心した。「お茶でもどうですか?話を聞かせてください」
ラーヴィは三日間滞在し、いえぞうの魔法について色々と教えてくれた。彼の説明によると、いえぞうの魔法は「記憶共鳴」というもので、この世界でも非常に珍しい種類だという。
「記憶と感情が物質に染み込み、やがて意識を形成する...」ラーヴィは説明した。「君の世界では"思い出"と呼ばれるものが、この世界では実際の力となる」
「だから、家族の思い出が魔法になるんですね」リツは理解した。
「そう。そして面白いのは、新しい記憶も同様に魔法となり得ること。つまり...」
「新しい家族の思い出も、いえぞうの魔法になるってこと?」リツが目を輝かせて尋ねた。
「まさにその通り」ラーヴィは微笑んだ。「だからこそ、モスが来てから家の魔力が増したんだ」
その夜、リツはラーヴィに自分の両親のことを話した。父親は大工で、この家の修繕をいつも自分でしていたこと。母親は料理が上手で、特に味噌汁は近所でも評判だったこと。
話し終えると、リツは涙を流していた。「もう二人には会えないけど...いえぞうのおかげで、思い出は生きているんだね」
ラーヴィは静かに頷いた。「失ったものは戻らないが、記憶は力となる。それがいえぞうの本質だ」
翌朝、ラーヴィが旅立つ前、彼は小さな水晶をリツに渡した。
「これは連絡石。必要になったらいつでも呼んでくれ。私ができることは限られているが、力になりたい」
リツがその石を受け取ると、石はふわりと輝き、いえぞうの天井から吊るされた風鈴が一斉に鳴り始めた。
「おや?」ラーヴィが驚いた顔を上げると、風鈴は虹色の光を放ちながら、まるで生き物のように揺れていた。
「これは...」
「祖母の風鈴!」リツが嬉しそうに言った。「祖母がいつも『風の声を聞くと、遠くにいる人と心がつながる』って言ってたの」
ラーヴィは感心したように頷いた。「君の祖母は賢い人だったんだね。この風鈴、今は本当に人と人をつなぐ力を持っているよ」
その後、ラーヴィは出発した。リツとモスが見送る中、彼は振り返り微笑んだ。「また会おう、新しい家族たち」
いえぞうの屋根瓦が光を反射して、一瞬だけ金色に輝いた。まるで別れの挨拶をするかのように。
夏が深まるにつれ、リツの家を訪れる者が増えていった。ラーヴィが旅先で噂を広めたこともあり、困った時に助けを求めてくる者も現れ始めた。
中でも印象的だったのは、ミリと名乗る小さな水の精霊だった。彼女は小さな泉に住んでいたが、その泉が最近汚れてきていることを心配していた。
「どうすればいいか分からないの」ミリは透明感のある青い肌を震わせながら訴えた。「泉が枯れたら、私も消えてしまう...」
リツとモスは早速ミリを助けることにした。ラーヴィから教わった魔法の知識と、モスの森の知恵を組み合わせ、いえぞうの力も借りて、泉を浄化する方法を考え出した。
いえぞうが発動させた魔法は、リツの母が教えてくれた「水を大切にする心」だった。母は料理の水一滴も無駄にせず、残り水は必ず植物にあげていた。その記憶が、水を浄化する結界となったのだ。
ミリの泉が清らかさを取り戻した日、彼女は喜びのあまり舞い上がり、水滴のきらめきとなって空中を踊った。
「ありがとう、リツ!あなたとあなたの家に恩返しがしたい」
そう言って、ミリはいえぞうに水の魔法をかけた。すると、いえぞうの井戸から汲む水が、傷を癒す効果を持つようになった。
「これからは、いつでも私の力を使ってね」ミリは言った。「私もここに来てもいい?」
「もちろん!」リツは嬉しそうに応えた。「私たちの家族になってよ」
そして、いえぞうの縁側の風鈴が再び鳴り、今度は風鈴の音色が水のせせらぎのような美しい旋律を奏でた。新しい記憶が刻まれた瞬間だった。
秋になると、さらに奇妙な訪問者がやって来た。それは「シャドウ」と呼ばれる、姿のない声だけの存在だった。シャドウは森で道に迷い、光を失ったという。
「私はかつて人間だった」シャドウは悲しげに語った。「でも、ある呪いによって影だけの存在になってしまった。光を失い、誰にも見えない...」
リツはシャドウを何とか助けたいと思った。しかし、どうすればいいのか分からなかった。
「シャドウさん、ここにいてもいいですよ」リツは提案した。「いえぞうには、みんなの思い出が詰まっています。きっと、あなたにも何かが見つかるはず」
シャドウは半信半疑だったが、居候することになった。最初の数日間、シャドウは家の隅で静かにしていた。誰にも見えないため、存在を主張することもなかった。
ある夜、リツはふと目を覚まし、いえぞうの和室で微かな光が揺れているのを見た。好奇心に駆られて近づくと、それはシャドウだった。完全な闇ではなく、わずかに輪郭が見える。
「シャドウさん...見えます」リツは驚いて言った。
「え?」シャドウもびっくりした様子。「どうして...?」
その時、いえぞうの声が聞こえた。「この部屋は、リツちゃんのお父さんが大好きだった場所なんだ。彼はよく『どんな暗闇にも、必ず光は差す』って言ってたんだよ」
リツの父の思い出が、シャドウにわずかながらも形を与えていたのだ。
それからシャドウは少しずつ変わっていった。家族の食事に参加し、話をするようになると、日に日に輪郭がはっきりしてきた。リツとモス、ミリとの新しい記憶が形作られるにつれ、シャドウは徐々に光を取り戻していった。
「みんなのおかげで、自分が誰だったのか思い出せてきた」ある日、シャドウは言った。「私は...ナオという名前だった。絵を描くのが好きだった...」
その言葉を聞いた途端、いえぞうの和室の壁に、水彩画のような風景が浮かび上がり始めた。それはまるで壁自体が絵を描き出しているようだった。山々、川、木々...すべてが美しい色彩で彩られていた。
「これは...私が描いていた風景!」ナオ(元シャドウ)は感激して叫んだ。
「いえぞうが、ナオさんの記憶を呼び覚ましたんだ」リツは微笑んだ。「あなたの一部が、この家に刻まれたってことだよ」
それから数週間後、ナオの姿はほぼ完全に戻った。彼は若い男性で、優しい目と細い指を持っていた。
「リツ、みんな、ありがとう」ナオは出発の日に言った。「私は自分の村に戻り、絵を描き続けるよ。でも、必ず戻ってくる。この家は...私の魂を救ってくれた場所だから」
ナオは去る前に、和室の壁に一枚の絵を描いた。それはリツ、モス、ミリ、そしていえぞうが一緒にいる様子を描いたものだった。絵の中のいえぞうは金色に輝いていて、まるで生きているかのようだった。
「これが私の記憶。いえぞうに残していくよ」
その絵が完成した瞬間、家全体がふわりと揺れ、一時的に金色の光に包まれた。いえぞうが、新たな力を得た証だった。
やがて冬が近づき、雪が降り始めた。リツの家には今やたくさんの「家族」が集まっていた。モス、ミリ、時々訪れるラーヴィ、月に一度は絵を描きに来るナオ...そして他にも、リツが助けた多くの存在たち。
彼らが持ち寄る物語や思い出は、すべていえぞうの一部となり、家はどんどん不思議な力を増していった。壁には絵が動き、庭の植物は季節外れの花を咲かせ、風鈴は遠くにいる者同士の会話を伝えるようになった。
ある夜、大きな雪嵐が訪れた。風が家を揺らし、雪が窓を打ちつける中、リツは暖炉の前でみんなと団欒していた。
「こんな夜は怖いね」ミリが小さな声で言った。
「大丈夫だよ」モスが安心させた。「いえぞうは強い。私たちを守ってくれる」
その時、いえぞうの玄関戸が激しく叩かれる音がした。
「誰かいる」いえぞうが告げた。「困っている人だ」
リツが慎重にドアを開けると、そこには小さな子供が立っていた。全身雪まみれで、震えている。
「助けて...」子供は震える声で言った。「村が...雪崩に...」
リツたちは急いで子供を中に招き入れた。温かい飲み物と毛布を与え、子供が落ち着くのを待った。
子供の名はピノ。近くの村の子供で、雪崩が村を襲った時、助けを求めて走ってきたのだという。村には他にも生存者がいるかもしれないが、雪と闇の中では探せなかったという。
「行かなきゃ」リツは決意を固めた。「村の人たちを助けに」
「でも、こんな嵐の中では...」ミリが心配そうに言った。
「みんなで力を合わせればできる」リツはみんなの顔を見回した。「いえぞう、私たちを助けてくれる?」
「もちろん」いえぞうの声は力強かった。「これまでに積み重ねてきた思い出の力を使おう」
それからリツたちは急いで準備を始めた。モスは森の生き物たちを呼び、ミリは水を操って氷の道を作り、ラーヴィ(たまたま訪れていた)は光の魔法で道を照らした。
そして何より強力だったのは、いえぞうの魔法だった。家から発せられる金色の光は、まるで灯台のように夜の闇を切り裂いた。その光は単なる明かりではなく、「家族の絆」という思いが形になったものだった。
リツたちは雪の中を進み、ついに村に到着した。雪崩は村の半分を飲み込んでいたが、いくつかの家はまだ残っていた。村人たちはその中に閉じ込められていた。
「どうやって助ければ...」リツが呟いた時、いえぞうから祖母の声が聞こえた。
「リツ、思い出して。家族とは何か」
リツは目を閉じ、自分の両親、祖母、そして新しい家族たちとの思い出に意識を集中した。温かさ、安心感、絆...
その瞬間、金色の光の糸が、リツの胸から伸び、雪に埋もれた家々に向かって広がっていった。光は雪を溶かし、道を作り、家々を包み込んだ。
「これが...記憶共鳴の本当の力」ラーヴィが感嘆の声を上げた。
村人たちは次々と救出された。中には怪我人もいたが、幸い命に別状はなかった。リツたちは村人全員をいえぞうに招き、その夜は皆で暖を取った。
翌朝、嵐は去り、太陽が輝いていた。村人たちは感謝の言葉を述べ、自分たちの村を再建するために戻っていった。しかし、そのうちの何人かはリツの家に残ることを選んだ。特に、親を亡くしたピノはリツに懐き、一緒に住みたいと言った。
「私も家族になっていい?」ピノはリツに尋ねた。
リツは微笑んで頷いた。「もちろん。私たちの家族は、いつでも誰にでも開かれているよ」
その言葉を聞いて、いえぞうは再び金色に輝いた。家全体が暖かく脈打ち、まるで心臓を持っているかのようだった。
「感じるかい、リツちゃん?」いえぞうが優しく言った。「君の家族は、どんどん増えているよ」
リツは頷いた。血のつながりがなくても、思い出と絆で結ばれた家族。それがリツにとっての本当の家族だった。
そして、いえぞうはその全ての思い出を抱き、守り、力に変えていく。古い記憶と新しい記憶が溶け合い、いえぞうはますます豊かな存在になっていった。
季節が巡り、春が訪れようとしていた。いえぞうの周りには小さな集落ができつつあった。リツを頼って訪れた者たちが、近くに家を建て、暮らし始めたのだ。
「まるで村みたいになってきたね」ある朝、リツは縁側から眺めながらつぶやいた。
「うん、いつの間にか私たちの家族は大きくなった」モスが隣に座りながら答えた。
「いえぞうのおかげだよ」ミリが井戸から顔を出して言った。「いえぞうがみんなをつないでくれた」
「いいえ、リツちゃんのおかげだよ」いえぞうの声が優しく響いた。「リツちゃんが心を開いたから、みんながここに集まったんだ」
リツは照れくさそうに微笑んだ。かつて人とのつながりに不安を抱いていた自分が、今では大きな家族の中心にいる。それは不思議な感覚だった。
「でも、祖母とお父さん、お母さんに会いたいな...」リツはふと寂しそうに言った。
その時、いえぞうの床板がきしみ、柱がかすかに震えた。
「リツちゃん、ひとつ試してみないか?」いえぞうが提案した。「私の中には、たくさんの記憶が詰まっている。もしかしたら...」
いえぞうの言葉に従い、リツは家の中心、かつて祖母の部屋だった場所に座った。モス、ミリ、ピノ、そして他の家族たちも集まってきた。
「目を閉じて、祖母のことを思い出して」いえぞうが静かに言った。
リツは目を閉じ、祖母の笑顔、声、匂い...すべてを思い出そうとした。他の家族たちも、リツのために静かに見守っていた。
すると、部屋の空気が変わり始めた。温かく、懐かしい匂いが漂い、かすかに織機を操る音が聞こえてきた。リツが目を開けると、そこにはうっすらとした光の輪郭が見えた。
「お...ばあちゃん?」リツは震える声で呼びかけた。
「リツ...」弱々しいながらも、確かに祖母の声だった。「よく頑張ったね」
リツは涙を流しながら立ち上がった。目の前には、透明に近いながらも確かに祖母の姿があった。
「これは...記憶の投影だよ」いえぞうが説明した。「完全な復活ではないけれど、いえぞうに残された記憶が形を取ったんだ」
祖母の姿は微笑み、リツに向かって手を伸ばした。触れることはできなかったが、その存在自体が温かさをもたらした。
「リツ、私はいつもここにいるよ。この家の中に。そして...」
祖母は周りに集まった者たちを見回した。「あなたがこんなに素敵な家族を作ったなんて、とても誇りに思うわ」
リツは涙を拭いながら頷いた。「みんな、大切な家族だよ。血のつながりじゃなくても、本当の家族」
祖母の姿はにっこりと笑い、次第に薄くなっていった。
「いつでもここにいるからね。忘れないで...」
祖母の姿が完全に消えた後も、温かさは残っていた。それはまるで、祖母が抱きしめてくれているような感覚だった。
「ありがとう、いえぞう」リツは家の柱に寄りかかって言った。
「私こそ、ありがとう」いえぞうは応えた。
「リツちゃんのおかげで、私はただの古い家から、大切な存在になれた」
その日、いえぞうは一日中やわらかな金色に輝いていた。それは悲しみではなく、愛と絆の証だった。
いえぞうを中心にした小さな集落は、次第に「記憶の里」と呼ばれるようになった。それは、この場所が思い出と絆によって守られ、育まれているからだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます