流しそーめんに、恋に落ち
「羽根、お呼びだ」
話しているところで、クラスメートで委員長の、柿口(かきぐち)透(とおる)に話を掛けられた。
「やあ委員長。こんなタイミングでお呼び出しなんてどちら様どす」
羽根恋愛が視線を向ける。
「あの御方だ」
柿口透が、スッと中指で眼鏡を直すと教室の出入り口を反対の手の指す。
「ありゃあ麗しの禰先輩ではないか。猛烈な時間を費やしそうだ」
「俺、教室に戻るっすね!」
「マテマティカ!!!笑顔で悲しい事言うんじゃありません!!」
「じゃあLINEしますんで!」
慶谷史郎が席を立って去っていく。
「あ〜!!憩いのキミが!!」
ガタリと席を立つと、羽根恋愛は教室の出入り口に立つ男に近づく。
「"學園(がくえん)のホスト"と言われる禰先輩に呼び出される日が来るなんて。目的はどのようなもので?」
現在、注目の的である。
「君もそう変わらないだろう」
「僕の指名料は高いよ」
羽根恋愛と話している男の名は、特別学科に在籍する三学年の、禰(かたしろ)夜(よる)。この學園で、表で人気があるのが生徒会であれば、裏で人気のあるのはこの男、禰夜だ。
「昼休み中に悪い」
「別に構わないよ」
「仕事で疲れているだろう」
「入学式の日は、先輩のみだよ。補佐には仕事がないんだ。だから補佐の皆と入学式が終わるまで、ソラシドの園でPartyしてたよ」
「だから見当たらなかったのか」
「僕に御用があったの?ていうか今も」
和やかな空気と、微笑む羽根恋愛に、禰夜がぎこちなく目を逸らす。
「……話しがある」
「……イヤな予感」
一気に場の空気がガラガラと崩れ、それを避けるように、禰夜が前髪を掻き上げた。羽根恋愛が心の距離を置く様子を見せる。
「羽根が好きな、売店のバナナ牛乳奢る」
「焼きそばパンも」
「ああ」
「本当、相変わらずの金持ちだね。じゃあ——」
"屋上行こうか"と晴天の青空。屋上には現在、禰夜と羽根恋愛の二人がいる。
「いやあー、日差しぱねえですね。シミ出来たらいっぺん死んで、イケメンに生き返ってやるぜ」
「日陰に行こうか」
「さすが先輩っす」
日陰になっている場所に、座る二人。禰夜と羽根恋愛が横に並んで座る。
「話しって、もしかして嶺本先輩関係ですか?」
「鋭いな」
「禰先輩を悩ませる原因って、嶺本先輩ぐらいですから〜。御二人は互いに似て、友好関係狭いし。ずっと一緒に居て、仲がよろしいし?」
「……」
「えーと、その間(ま)はなんっすか。悩ませているのは嶺本先輩では?もしや喧嘩しました?」
コンクリートの壁に背中を預ける禰夜。
「羽根、俺さ……」と前を見て話し出す。
ブッ!!ブブブブブブブ!!!とバイブ音がした。
尻ポケットから携帯電話をポケットから取り出して、画面を触りながら、羽根恋愛が「なんすかー?」と穏やかな態度で応える。
「ケーキ屋さんになりたくて」
「へえー。え?あ、TKYM(超空気の読めん)円城寺から鬼電が。タイミングにワロス」
「……」
爽やかな風が吹いて「気持ちー」と羽根恋愛が笑う。
「感想の程は」
「かっけーっす。でも先輩ってヘビースモーカーっすよね」
「……」
「まあ本音、言います。適度な距離感って大切ですよ~」
「ケーキ屋さんってなれるんすか?パティシエっすよ」と言った羽根恋愛に、禰夜が「花屋さんでもいいけど」と言った。「やる気の無さに乾杯〜」と羽根恋愛が禰夜に寄り掛かる。
「先輩って普段、何してるんすか」
「決まった生活送ってる。アイツが居るから」
「嶺本先輩ってソクバッキーですもんね。最後の高校生活、もっと楽しみましょーよ」
カタンと音がした。そこには、嶺本丐がいた。
「禰、ここに居たのか」
太陽の光を背に、長身の綺麗な男子生徒が屋上に姿を現した。フラつきながら少し疲れている様子で現れた。影になって顔がよく見えないが、その男子生徒は、禰夜と仲が良いと有名な嶺本丐。嶺本丐は、禰夜とは喋るが普段は無口で怖い印象がある。
羽根恋愛を見ると、「こんにちは」と綺麗な笑顔を見せた。
「やあ嶺本先輩、こんにちは」
「何を話していたの?」と笑う嶺本丐が、禰夜の隣に座ろうとした時に、嶺本丐の身体がフラリとよろける。驚いた禰夜が抱き寄せる。
「悪いね。軽い目眩がして……」
「軽いというが、頻度が多いぞ」
「大丈夫」
羽根恋愛がポケットに携帯をしまう。
「嶺本先輩の話しをしていたんす」
「羽根には、相談に乗ってもらったんだ」
「相談?」
嶺本丐が腰を下ろすと、羽根恋愛を見る。
「ケーキ屋さんになりたいそうです」
「ケーキ屋さん……」
「花屋でもいいが」
「へえ」
嶺本丐が、楽しそうに「ふふっ」と笑うが、オデコに怒りマークが浮かんでいる。
「進路相談をしていたんだね。でも禰の進路はもう決まっているから」
「まじっすか。知りたいっす」
「家を継ぐことだよ」
「かなりの本気度。未知の世界〜」
「禰の専属秘書になるのが僕の進路だよ。家系の問題で、生まれつき決まっている事なんだ」
「だから学校でも一緒にいるんすか?」
「」
夏から始まる語り物 白い恋 @siroikoi
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