第一章――香華學園の卒業式は盛大に行われました。僕らは脇役となり茶漬けParty

香華學園。幼小中高大と附属の学校だ。香華學園には現在、特別学科、が存在する。


その中で、成績優秀者にはSAランク認定のネクタイが表彰される。ランク認定を受けてネクタイを締めているのは、優秀者が集まる、生徒会、生徒会補佐、風紀委員会だ。


朝九時に、入学式が開幕する。SAは上段(三階)の席、普通科は中段(二階)の席。入学生徒は下段(一階)の壇上の前に並ぶ席に座る。生徒会、生徒会補佐、風紀委員会は、一階の教員席の隣に並ぶ"役員席"に座る。


生徒会補佐とは……特別な役職であり、優秀者が補佐となる。しかし、補佐なのでやれる事は決まっているが、生徒会と風紀員会と同様に優遇制度があり、生徒会役員と同等の扱いをされる。なので、好意を持たれることもあれば、妬みもある。


そこは、生徒会のみが使用できるVIP席、ソラシドの園(そらしどのえん)。朝の眩しい光で輝く池の水、爽やかな風――園という名だけあり、薔薇だけではなく、チューリップの花にも囲まれた場所。


入学式が始まる秒前である中で、生徒会長補佐の円城寺(えんじょうじ)幸也(ゆきや)、副会長補佐の羽根(はね)恋愛(れんあい)、書記補佐の佐吉(さきち)太郎(たろう)、会計補佐、棚本(たなもと)礫(れき)と、丸い机を囲んで座る生徒会補佐。


「今日でおさらばだ!!」


副会長補佐、羽根(はね)恋愛(れんあい)が、しみじみする。


生徒会長補佐、円城寺(えんじょうじ)幸也(ゆきや)が「ひどいよ恋たん!!」と右手に座る羽根恋愛に言った。


「幸也とおさらばで嬉しいだなんて、キミに恋に落ちてる秒前の僕に言わないで!!卒業式終わったら告ろうと決意していたこの気持ちがズタボロに!!」


「恋に落ちてる秒前?卒業式が始まる秒前だろボーケ。あ、梅取ってー」


「いや卒業式じゃなくて後輩の"入学式"なんで」


会計補佐、棚本(たなもと)礫(れき)が羽根恋愛に梅を渡す。


「円城寺、冗談は死んでから言え地獄でな」


書記補佐、佐吉(さきち)太郎(たろう)が怒りながら自分の茶碗に茶を注ぐ。


「佐吉、キミの気持ちはオレのハートに閉まっておくぜ永遠と」


佐伯太郎の片手を取り、震えながら手を添える羽根恋愛。


「返事は何さ。ところで、只今火傷注意法です」


ポトポトと茶を注ぐ。


「僕のアイ・ラブ・ユーは届くのか!?」


円城寺幸也がガチャン!!と雑に箸を置いて立ち上がり、歯を食いしばる。


音に驚く棚本礫と、佐伯太郎がその音に驚き、茶を羽根恋愛の太腿に零す。


「アッチ!!」


「ごめん。わざとじゃないよ」と謝る佐伯太郎。


「佐伯オイ。わざとだと言っているように聞こえるが」


「いただきま~す!!」


笑顔で手を合わせて、蓮華(れんげ)を持つ佐伯太郎。


「茶漬けウマー」と佐伯太郎と同じく、棚本礫が円城寺幸也を無視する。


「死ぬかと思ったじゃねーか!!死んだとーちゃんが迎えに来ただろ!"恋たん火傷大丈夫?"って!!」


羽根恋愛が立ち上がり、円城寺幸也の胸ぐらを掴む。


「ぐ、ふっ!!……なぜ、僕なんだ……佐伯オボエテロヨ……」


「円城寺こわーい」


「恋たん、円城寺が死んでます」


棚本礫がビシイ!!と円城寺幸也に視線を向けた。掴んでいた胸ぐらを離す羽根恋愛は椅子に腰を下ろす。円城寺幸也は、ネクタイを正しながら椅子に腰を下ろす。


「茶を入れんの忘れてたよ」


「茶漬けに茶は必須だぞ」


円城寺が羽根恋愛に薬味の入った小皿を渡す。


「ただの飯じゃねーの。茶漬けPartyなのにキモいな」


そう言った佐伯太郎がお箸に持ちかえて、お新香を取り、ボリボリ食べる。


「それ薬味じゃないのか円城寺、茶はこっちだ」


棚本礫が冷えた緑茶を手渡す。


「あざす。さすがアニキっす」


「氷も追加でよっと!」


棚本礫が、容器の中から手づかみで氷を取ると、羽根恋愛の茶碗の中に入れた。


「礫?」


「キーンとくるヤツやってみよー!てへぺろ」


「カチーンときた」


蓮華で茶漬けを食べる佐伯太郎と、棚本礫と羽根恋愛のやりとりをチラリと横目で見る円城寺幸也。羽根恋愛の手前にある梅をスッと箸で掴む。


え、と心の中で驚いた羽根恋愛。梅をパクリと口の中に入れた円城寺幸也。


「はあああー!?」


「大人げない」と佐伯太郎が呆れる。


「ブッ殺す!!」


「コラコラ。怖ろしいな」と棚本礫が笑う。


「そんなに梅を食いたかったのか。しょうがねーから、生姜をやる」


円城寺幸也が羽根恋愛に小皿に乗ったスライスされた生姜を渡した。それに対して文句を言う羽根恋愛。


「いらねーよ。クソつまんねーダジャレ言うな。最後の梅を返せ!!」


「もう食った。ごちそーさま」


「吐け」


「貴方の最後の梅は、僕の口から喉を通り、そして胃袋で只今消化中です」


「詠うな!!」


――場所は、第一総合体育館。


「補佐の姿が無いな」


トイレから戻ってきた、京(けい)犂(らい)が見渡すと席に着く。隣に座る黒木(くろき)渚(なぎさ)に聞いた。


「聞いてないの?補佐の人達は、ソラシドの園で茶漬けPartyだって」


「は?」


携帯のLINEメッセージを見せる黒木渚。そこには「茶漬けParty中であります。御一緒しませんか」というメッセージが記され、写真も添付されてある。「ブハッ!!」と入学生の北森(きたもり)真(しん)が笑い「相変わらず気まぐれだ」と椅子に背中を預ける。


この三人は、今日、香華學園に入学をする生徒達である。香華中学校を卒業後、試験をえて、香華學園の附属学校であるこの高校に入学することが決まった。


ピースしている佐伯太郎、ウィンクをしている羽根恋愛、肩を抱き寄せる円城寺幸也を睨む棚本礫が写真に残されている。京犂が「この卓はもしや?」と一枚の写真を指す。「ナイス」と北森真が言った。


「明らかに"雀卓Party"だな」


「羽根先輩、カモにされてね?」


京犂が笑う。


「円城寺さん鬼強えから」と北森真が笑う。


「佐伯さんは頭脳派です」と目をキラーンとさせる黒木渚。


「陰でバトる礫さんと円城寺さんパねえ」


「一服しようなオーラの礫さんが写っているホラー現象。礫さんが苛々してる時って、脚組むから直ぐに分かるなー。さすが元ヤン」と言った京犂。


「いや現役なんで。いつも優しい人だからこそ分かるっつーね」


その間も、生徒会と風紀委員会の席は空席だ。


「そういえば、生徒会と風紀委員会と、外の出入り口で会ったんだよ」と京犂が言った。「ああ、それは」と黒木渚が話す。


「今の時間、生徒会と風紀委員会の方は、出入り口で入学生の名前チェックをするのが仕事なんだ。済ませたら、挨拶があるから中に入って来るよ」


「役員は、大変だな」と北森真がふうと溜め息を吐いた。


朝日が差し込む、体育館の中は広く騒がしい。そんな騒がしさとは違う、ざわめきに「来たね」と黒木渚が、静かに言った。


「あの人が」


北森真が言った。


「赤城(あかぎ)恋(れん)先輩ですね。今年、三学年で生徒会長に就任する生徒です」


黒木渚が淡々と言った。


「目立ってんな」


京犂が心の距離を取る。


「マンモス校でこれ程までとは凄い」


スマートに席に座る赤城恋。長身で筋肉質な体型なので、遠距離からでも仕草が良く見れる。


「藤堂(とうどう)平助(へいすけ)先輩だ。同じく三学年で、副会長だ」と北森真が言った。


男子校なのに「うわあ!!」という歓喜の声や、「キャー!!」という色を浴びた声。


「日本男子だな。そういえば、サッカー部の部長と聞いたが」


黒木渚が「推薦らしいです」と京犂に言った。


「爽やかですね」


「噂には聞いていたが、本当に色っぽいな。赤城恋には負けるが」


ゾッとする気配察知をした三人。ギギギと首を横に向ける。「なんだろう、氷河期?」とビビる北森真。


「会計の、平野(ひらの)先輩。眼力すげえな……」と北森真が言った。


「"優等生"っていう柄は外面で、内面はヤンキーだからなあの人。溺愛している恋人にヤンデレらしいし」と京犂が壇上に上がっている平野(ひらの)太一(たいち)に視線を向けて言った。


「これから、第五十二回、香華(こうか)高校入学式を行います」と平野太一の凛とした声が体育館に響いた。去る時に、平野太一が京犂に視線を向けた。


「平野先輩と目が合った、気が……」


「秒で逸らせ」


「しっかりと葬りますから」


「なんで死ぬ前提なんだよ」


平野太一が椅子に腰を下ろすと同時に、風紀委員長の並木(なみき)冬也(とうや)が現れる。今年、三学年に進級する。


「儚いな。いつ見ても細え」


京犂が椅子に腰を下ろす並木冬也に視線を向けた。


「バーカ。油断禁物だってーの。かなりの遊び人だからあの人」


北森真が指で鉄砲を作ると並木冬也に向ける。


「ここ附属の男子校だしね」


「相手がドロッドロに嵌まりそうな、真面目な奴を狙うんだよ。犂みたいな」


「僕?」


黒木渚が意味深長にニコリと笑い、北森真が作った鉄砲を京犂に向けてた。そんな話しをしていると、風紀副委員長の井野(いの)明音(あかね)が欠伸をしながら登場して来た。


「井野先輩だ!これでお逢いするのは二回目です!」


「二回目?」


京犂が黒木渚に視線を向けて聞いた。


「体験入学の日に、校内で迷って会ったんだ。その時に会って、少しだけ話しもした」


「へえ」


前に視線を戻して、京犂が相槌をした。


「不思議な人ですよね」


「まあ」


「話すと、意外と明るい性格で」


「意味深〜」


北森真が緩い態度で言った。


前を見ながら話す三人。ほのぼのとした空気が、次の京犂が話した言葉によってズタボロに。


「何ていうか、僕は家で会う。明音さん、兄さんだから」


「……」と無言になる北森真、「……え」と小さな声が出た黒木渚。二人は勢い良く視線を京犂に向ける。


京犂が言った「明音さん」に驚く北森真。「苗字違うよね!?」と大きな声で言って、黒木渚は京犂の腕を掴む。


「親が再婚した。血の繋がりは無い。つーか離せ、腕が痛い!あ、明音さん」


「え!!」


京犂に向けてヒラヒラと手を振る井野明音。それに応える京犂。黒木渚は、焦った様子で井野明音に視線を向ける。井野明音は、隣に座る並木冬也に話しを振られ、手を下ろしながら椅子に腰を下ろす。


「今日、遊びに来れば?明音さん、決まった時間に生活するタイプの人みたいだから。家に行けば会えるよ」


「は!?」


「明音さんにLINE送るよ。今日、ダチ連れて帰るって」


京犂が携帯のLINEを開いた。


「ちょちょちょ!!」


「明音さんのプライベートってどんな感じ?」


「普通に優しい。てか渚……」


ピロリ菌!という着信音が鳴った。


"いいよ"


「いいよだって。真と渚、今日家に来る?」


「心の準備運動をさせて下さい」


「行くに決まってんじゃん。毎日通う」


「マジか。毎日来い」と言う京犂に、「心臓破裂するって……」と黒木渚が言う。


「入学早々、恋うるわいか。渚の高校生活が、思いやられるな」


「違うわ!」


京犂に黒木渚が、即座に否定した。


――総勢百人の生徒が入学する今日。赤城恋が壇上に向かうと御祝いの言葉を告げる。


「赤城先輩こそ、漢の中の男です」


「声が艶やか過ぎるだろ」と真面目に言う京犂の後に、口笛を吹く北森真。「カス以下か!」と黒木渚が北森真の太腿を叩く。


三人が話し合う間も、入学式は進行されて行く。生徒会、風紀委員会は、目を伏せるように静かに椅子に腰を下ろしている。


――入学生の皆さん、御入学おめでとうございます。晴天の今日は、入学を祝うような青空です。後ろを振り向くことなく、夢に向かって頑張って下さい。在校生代表、赤城恋。


特別学科の二年一組。十三時頃の教室は賑やかだ。窓が空いていて、外から涼しい風が入ってくる——風で、明るい紫色の髪の毛が揺れた。補佐なのに、毎日色が変わる色彩豊かな髪の毛と、灰色の瞳が特徴的だった。


ストレートの髪の毛が王子様を連想させるが、性格が喜怒哀楽が激しく、「好きなものと嫌いなものの差別化が酷いデビル」とひっそりとあだ名が付いた。


灰色の瞳はやんちゃな男子生徒と印象を与えるそれは、羽根恋愛は「生まれ持ったもの〜」と言っていたが、カラーコンタクトという偽物だということは全校生徒が承知済みだった。


席に座っている羽根恋愛。窓際から二列目。その後端(こうたん)の席。机の上には一輪の菊の花が置いてある。歌を口ずさみながら、羽根恋愛がLINEを開く。"幸也様流し素麺よろ"の文字。


「相手、補佐すかそれ」


「イタズラの仕業だよ。根性焼きしてやろうか」


「LINEの相手っす」


「立ち話もなんだからな、狼(おおかみ)君、隣の席にどうぞ。ちなみに円城寺のバカはソラシドの園で爆睡中だよ」


羽根恋愛が視線を向けたそこには、普通科に在籍する二年の慶谷(けいや)史郎(しろう)がいた。羽根恋愛の携帯電話を指差している。


明るすぎる金髪が不良を一層イメージされて、近寄りがたくされているが、事実、プライベートでもやんちゃで、慶谷史郎という男は不良である。


「ちなみにそこ花街(かがい)列(れつ)君の席。僕の苦手分野。冗談だけど本音。無口なのが短所だよ」


「花街列って、誰っすか」


「席替えしてもずっと同じ場所にいる漢。窓際の後端(こうたん)」


「地味系なんすか」


「バリバリのイケメソ」


「拝んでみたいっすね」


「そういえば、狼君は会った事ないのか。連絡先知ってんだよ花街の。どこいんのか電話をしてみよう。ちなみにこれ第百七六回目のイタ電」


「先輩の性格が少し分かりました」


「もしもし」と言った声には少し笑いが含まれている。棚本礫の声が電話越しから聞こえた。


「礫じゃん。その携帯は花街のでは?」


「先ほどはヨロシコして頂きアザスピロ酸。ボク、花街と廊下で駄弁ってるんで」


棚本礫の声が電話越しから聞こえた。


「あーらそう」


「羽根も混ざれよ」


「三ピーはパスタさ。僕は只今、教室で慶谷君と駄弁り中なんだから」


「ケイヤとは?花街パスタ」


棚本礫の意識が花街列に向けられた。


「隣の科の――」


遠くで聞こえる花街列の声。


「待て待て。花街に変われ。頭狂った果実か」


羽根恋愛が焦る様子を見せる。


「なんかあったー?」


花街列の優しい声が聞こえる。


「超イケメン男子を紹介する」


「僕には羽根という恋人がいるから」


「狼君にかわりまーす」


「羽根オイ」


バリッという音が耳元から聞こえる。慶谷史郎が「え!!」と驚く。


「……慶谷史郎です」


「知ってるよ」


「え~と、なんで」


「羽根と仲良いでしょ。アイツは目立つからね」


「えっと、特に用事とか無くて……」


「ううん、良いよ。どうせ羽根の気まぐれでしょ」


「あははっ」


「でも、これも縁だと思うから、これから仲良くしようよ」


柔らかい雰囲気に慶谷史郎が取り込まれる。


「はい、こちらこそ」


「またね。じゃあ、あのお節介バカに変わって」と花街列が笑う。慶谷史郎が「うっす」と笑う。


「もろ聞こえ。流し素麺ハブるわ。花街クンだけごめんなさい!ザビエルによろしく言っておいてくんろ!!」


「え?流し素麺?ザビエル?」


花街列が不思議そうに聞く。しかし羽根恋愛が強制的に電話を切った。


「ところで特科の教室まで何の御要件だおい。こんなところまで売りに来たのか焼きそばパンとイチゴ牛乳を。良い度胸だ」


「機嫌悪っ!!つーか、焼きそばパンとイチゴ牛乳って限定してるのが怖いっすけど。遠回しに奢れよと脅迫されてる感ぱないですけど」


「そんな事ないよ狼君」


「笑顔が嘘くさいですけどね」


「金欠でゾワゾワするよ」


「バイトして先輩」


「ダルいんでパス」


――二年一組。特別学科(とくべつがっか)。別名、特科(とくか)。そこの教室の出入り口に、一人の美形が居る。


いつも一緒にいる嶺本(みねもと)丐(かい)が不在で、一人でいる事に行き交う生徒達は驚く。




――アナザストーリー。棚本礫と花街列。


「結局、なんの用件だったのだろう」


「さあな。まあ羽根の、日頃の行動も謎だし。気にすんな」


「うーん」

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