どこかイタリアンなトマト麺

 その店は随分と前から気になっていた店だった。

 トマト麺。

 それは少なくとも私の中ではかなり異彩を放っている存在だった。

 トマトのラーメンはパスタなのでは? ラーメンじゃなくてピザのような感じになるのではないか? そう考えていた。

 しかしながら、こういった手合いの店は1度機会を逃すとズルズルとなんのかんのと理由をつけて行かないことが多い。


 ある日のこと。

 私はふとその店の前を通りかかった。

 腹は程よく空いている。そして今明確に食べたいといったものは無い。この機会を逃してしまえばこの店に入ることは無いのではないか……?


 店内を覗くと幸い席は空いている……。神の思し召し……ってやつか。


「いらっしゃいませ」

「1名で」

「こちらの席へどうぞ」


 店内はカウンター席のみで、注文は各カウンター席事にあるタッチパネルで注文するようだ。

 さて、チーズラーメンと……〆にリゾットがオススメなんだな。では大人しくそうしようか。


 店内にはラーメン店特有良い匂いが充満している。

 周囲のカウンター席を見てみると一心不乱にトマト麺をすすっている人達が散見される。日によっては並んでいる時も見た事があるのでやはり美味しいのは確実なのだろう。




「お待たせしました」


 置かれたチーズラーメンを見ると、まぁ赤い赤い。

 これだけ見ると激辛ラーメンかと思うほどに真っ赤なスープの上に黄色い綺麗なチーズが置かれている。緑なのは青菜とネギか。チャーシューの立ち位置は鶏肉だな。

 それでは早速……


「いただきます」







 おぉ……これはしっかりとラーメンだ!

 正直なところピザのような味わいになるのではないかと杞憂していたが全然ラーメンの味だ。

 細い麺にトマトスープのさっぱりとした味わいがよく合う。

 その反面で熱で溶けたチーズはトロリとした濃厚な味わいを醸し出し、アンバランスのようでそのトマトスープと互いに引き立て合うような味となっている。

 ネギや青菜、鶏肉もいいアクセントだ。シャキシャキとした食感や、柔らかい肉と細い麺と一緒に食べることでしっかりとした渾然一体のラーメンとなっている。




「ふぅー……」


 一通り食べ終わり残すはスープとなった頃合い。

 そうそれはつまりご飯を入れてリゾットの作成を意味していた。

 ラーメンと共にきたリゾット用のご飯にスープを入れていく。この時にスープに少し残ったチーズや他の具材も一緒くたに入れてしまおう。断言するがこっちの方が必ず美味しくなる。

 では改めていただこうか……




 うーん……そりゃ美味しいわな。

 先程満足したトマト麺のスープとチーズを使ってのリゾットなんだ。そりゃあ美味いに決まっている。

 雑炊といいこのような残った旨味を余すことなく食するという文化があることに実に感銘を受ける。




「ご馳走様でした」


 スープ、ご飯、それらをしっかりと平らげて私は手を合わす。


 イタリアンのラーメンとはこのようなものなのだろうか。風変わりなようで土台となる基本を抑えているためしっかりとしたラーメンを楽しめた。

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