山盛りの海鮮丼
深夜バスに揺られて何時間だろうか。
固まった腰や肩を伸びをしてバキバキと鳴らしながら私は東京の地に降り立った。
そこから更に電車を乗り継いでいく。
あくびと眠い目を擦りながらも、私が向かうは豊洲。豊洲市場だ。
豊洲につき、色々と店を見ていく。
中の店はチラホラと店はやっているのだが、外の店は着くのが早すぎたのかまだ準備中といった店も少なくない。
とりあえず中の方へと行くとしよう。
豊洲に来た時にやってみたかったことの一つとしてセリを見学してみたかったのだが既に終わっており、残念至極な気持ちで場内を見ていく。こればっかりはバスの時間の兼ね合いもあり詮方無いことなのだが……。
そんな事を考えながら歩いていくと、いくつかの行列が見える。
確認するまでもなく人気店なのだろう。
私も臆することもなくその行列のひとつに混じっていった。
立てかけられたメニュー表を見ていくと山のように海鮮が盛られた丼の姿があった。
よし!
カウンターの席が空き私は席に座る。
大将は忙しそうにしながらも私に注文を聞いてくれた。
私は先程見た山のような海鮮丼を注文する。
カウンターの数は決して多いとは言えないが店員さんは懇切丁寧に対応している。
私の隣には観光客と思わしき外国人の夫婦が座っており何やら仕切りに英語で訪ねていた。それを聴きながら店員さんはなんとか伝えている。力になることのできない英語力の持ち主でどこか申し訳ない。
しかしながら海外の人たちもこのような場所に来るというのは日本の寿司、海鮮が愛されている証拠だろう。そう思うと少しだけどこか誇らしく思えた。
「お待ちどうさま」
私の目の前に海鮮丼が置かれる。
先程見たパネルに偽りなし。正しく山のような海鮮丼だ。
大トロ、サーモン、イクラ、ぶり……etcetc。
なんとまあ豪勢な海鮮丼なことだろう。胸の高鳴りと共にヨダレが口の中を埋めつくしそうだ。
スゥと少しだけ息をつき手を合わせる。
「いただきます」
特性の醤油を回しかけて、おそるおそる崩さないように箸を入れる。
さあ、宝石箱に手をつけよう。
あぁ〜……美味い……!
それ以外の言葉が出ない……!
大トロは旨味と共にすぐに溶け、サーモンやぶりも存在感を負けじと表してくる。
イクラやイカ、鯛も十全に新鮮さを私の中に届けてくれている。
あまりに美味い。本当にただその言葉しか出ない程に。
落ち着くために卵焼きを少し齧り、味噌汁で口を諌める。
然しながら止まることなど知るはずもなし。
再び海鮮丼を存分に味わっていく。
半分程食べ進めた所で私は一度手を止める。
飽きた? そんなことはありはしない。
どうにも半分程食べ進めた後はお茶漬けで楽しむということを推奨しているらしい。
いいじゃないか。いいじゃないか。
専用のアツアツの魚介出汁をもって私は海鮮丼にかけていく。
恍惚になってしまうほどの匂いが広がっていく。
さて、ラストスパートといこうか。
あ"ぁ"〜〜たまらん……!
サラサラとした味わいとなり、優しさを残しながらも強烈な海鮮の味を残している。
そして食べやすい……。
その食べやすさが恨めしくなってしまうほどに美味い。
食べ進めたくない……でも食べていたい。
何故食べたら無くなってしまうのか……。
そんな悲喜こもごもの感情を抑えながら私はお茶漬けをかっこんでいった。
「ご馳走様でした」
お会計を済ませ席を立つ。
もう少しゆっくりしたいのが本音だがまだ後ろがつかえているのだ。私だけのんびりする訳にも行かない。
一度外に出て、夜風ならぬ朝風をもう一度浴びる。
充実した満足感と共に一松の寂しさを覚える。
素晴らしいご飯との一期一会のような出会いはそんな気分になってしまう。
私はもう一度豊洲市場を歩きながら思いを馳せる。
「もっと食べたかったなぁ〜」
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