カチョエぺぺ

 その日の私は昼ご飯を何をするかを決めあぐねており、住宅地をうろうろとしていた。

 腹は減っているのだが食べたいものが微妙に分からない。この現象はままあることだ。


 そんな時にふと思い出す。

 ここら辺にパスタ屋があった事を。


 住宅地にひっそりと佇む、隠れ家的な存在。

 私はそのパスタ屋にそんな印象を受けていた。


 私の足は早速その店へと赴いていた。




「いらっしゃいませ」

「1名で」

「お好きな席へどうぞ」


 中へと入り、テーブル席へ腰掛ける。

 内装はカウンター席4、テーブル席も2人用が1つと4人用が2つといった様子であり、なんとなくだが喫茶店のような雰囲気があると私は感じた。


 私はメニュー表を開きマジマジとながめる。

 まず目に止まるのは量を選べるという点だった。

 乾麺状態で100〜300g、約2倍になるそうだから実質200〜600gになるのか。


 そしてメニューはと言うと、よく耳にするナポリタン、カルボナーラ、ペペロンチーノといったスタンダードなものからチェーン店等ではあまり見られないようなパスタ等があった。(私が無知なだけかもしれませんが)

 メニュー表には使用するものの名前が書かれ写真も掲載されており、どんなパスタかの味も想像しやすくなっている。


 そんな中特に私の目をひいた存在が"生ハムのカチョエぺぺ"という存在だった。


 カチョエぺぺ……? なんだそれは。

 全く聞いたことがない名前だ。


 私は顎に手を当て悩む。

 スタンダードにカルボナーラやペペロンチーノを行くか……それともスープパスタ? …………カチョエぺぺ。

 パスタで好きなのはカルボナーラとペペロンチーノだしな……まず外れないだろうしそれにしておくべきか……。…………カチョエぺぺか……。

 …………うん。


「すいません」

「はい」

「生ハムのカチョエぺぺを200gと、あと自家製ガーリックパンお願いします」


 頼んでしまった。

 気になったのだから仕方がない。こういうのは行ってみるしかないのだ。




 店員さんは店主さん1人だけなのだろうか。

 厨房で熱いなかフライパンを振っていた。




「生ハムのカチョエぺぺとガーリックパンになります」


 少ししてから料理が到着する。

 麺の上に生ハムと玉ねぎそしてパルメザンチーズとブラックペッパーがふんだんにかけられていた。


 生ハムと一緒に食べたらいいのかな。

 そんなことを思いながら少し混ぜ、生ハムと共に口に運ぶ。




 出来たてだから少し熱いが……美味いな。

 チーズを使っているがこってりとし過ぎない味付けになっており、スルスルと食べやすい。

 生ハムと玉ねぎが程よくアクセントの役割を果たしており、モチモチとした麺にも負けない存在感を放っている。

 付け合せに頼んだガーリックパンも結構良い。

 パスタに対して主張しすぎないニンニクの味付けがされている。

 私個人としてはもっと味付けは濃くて良いのだがそれは好みの問題でしかないだろうし、何よりこの味付けが濃くなってしまえばカチョエぺぺを喰ってしまっている可能性がある。


 こんなパスタもあるんだな。

 そう思いながら私は食べ進めていった。




「ご馳走様でした」


 私は会計を済ませ店を出た後気になることを検索する。


「カチョエぺぺ……とは……」


 検索結果にでてきたのはイタリア語でチーズと胡椒と言う意味だった。


「へー、イタリアでは結構主流のパスタなのか」


 カチョエぺぺ……なんとなく不思議な名だが穏やかな響きだ。

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