熱々の焼き小龍包

 これは友人ととある中華街に行った時のお話。


 友人を誘い中華街に来た私達は予め下調べをしていた店や食べ物を食していた。


 北京ダック、肉まん、角煮バーガー、ふかひれスープ等を食べた記憶がある。


 2,3時間ほどぶらついていただろうか。

 お目当てのものは食べ終わり、あと1つ食べれるかどうかという腹具合となっていた。


 お開きにするか何か探すか……と話していたところでひとつの店が目に止まる。

 それはかなり行列ができている焼き小龍包専門店であった。


 焼き小龍包。

 私は食べたことがなく友人に聞くと友人も食べたことがないそうだった。


 ならば食べてみようということだが、列はあまりにも長く流石にちょっと……ということでその近くにあった別の店の焼き小龍包を食べることとした。


 食べ歩きのような形ではなく店の中に入り、座して待つ。


 正直なところ、この日のお目当てのものは食べた後であったし、焼き小龍包自体の期待度は低かった。低かったというよりは口に合わなくても既に満足しているため別に問題ないという気分だったという方が正しいか。


「焼き小龍包どうぞ。中が熱いので気をつけて」


 私達の前のテーブルに焼き小龍包が置かれる。

 湯気がたっていない。否、たってはいるのだがラーメン等のようにわかりやすいものじゃなくほんのりだけ薄ら白い程度だ。


 間違いなくこの内部はアツアツのグツグツだろう。

 焼き小龍包に限らずこういった包んである食べ物は内外の温度差が激しいものだ。




「「いただきます」」


 私だって馬鹿では無い。

 アツアツおでんを口に入れて悶絶する芸人さんのようなことはしない。


 皮に箸を入れ、少しだけ開く。

 肉汁の香りが一気に鼻に入っていき、器へと汁がこぼれる。

 腹もそれなりに膨れているというのに、食欲がそそられた。


 慎重に……慎重に箸で持ち、汁をすすりながら少しだけ皮を噛んだ。






「あ"ぁ"っ"づぁ"!」


 舌の先が一瞬麻痺したかと思うと、激痛にも似た刺激が突き刺さる。

 マグマのごとき肉汁が私の舌の上に到来したのだ。

 正直この時、焼き小龍包を吹き飛ばさなかった私を褒めたい程に熱かった。


「そんなに?」


 友人が笑いながら訪ねてくる。


いあほんこあついいやほんとあつい


 舌が上手く回らずに変な発音になる。

 そんな私を見ながら、友人も焼き小龍包を箸で持ち少し被りつく。






「あっつ!」


 お前もやるんかい。


 同じリアクションをしながら友人もその熱さに衝撃を受けた。




 過剰かと思う程に2人してふーふーとしながら慎重に落ち着いて食べる。

 外気に晒され、私達自身食べ方もわかりちゃんと味わうことが次第に可能になっていく。

 ……舌の先は痺れたまんまだが。




 味はと言うと本当に美味しかった。

 ザクとモチが融合したような皮に、旨みが凝縮された肉汁と具材が果てしないジューシーさで私の口腔内を満たしてくれる。


 ノーマークだったということもあるためか、その美味しさを感じる振れ幅は一気に駆け上がっていた。


「熱いけどめっちゃうまい」

「わかる」


 友人と舌ずつみを打ちながら2人で大いに焼き小龍包を味わっていく。

 もう少し食べたい……そんな気持ちが私の中でどんどんと溢れ出てくる。腹はそれなりに膨れているはずなのにだ。


「「ご馳走様でした」」




 店を出ると先程目に止まった焼き小龍包専門店は未だに行列が並んでいた。


 専門店というからにはやはり美味しいのだろうな……。この店は私が調べた時にも出ていた程に有名店だし。

 ……よし。




 結局私達は行列に並び、その店の焼き小龍包を味わい、お土産も買うこととなった。

 当然その店の焼き小籠包も悶えるほどに美味く、それにこうなっていた。


「「あっつ!」」

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