飲み会帰りの町中華
その日は夜に飲み会があり、私はほろ酔いの状態で夜道を歩いていた。
ほんの少しだけ火照る体に夜風が当たる。
酔いが少し覚めるような気分になり、心地よい感覚に陥っていく。
そんな最中だが私は1つの小さな問題を抱えていた。
「んん……腹減った」
私は飲み会ではあまり食べない……と言うより腹が膨れるほど食べた経験があまりない。
というのも私は飲み会では、酒の肴やくだらない話をつまみに酒を飲むというのが好みであり、その日もそうしてお開きになった。
別にその事に不満など微塵もない。
飲み会は楽しいし、気分も良い。これが私のスタンスというだけだ。
そのため、私は解散後コンビニでおにぎりや家に帰ってのカップ麺を食べることもしばしばあるのだが、この日は1つの中華屋が目に入った。
引き戸を開き店に入る。
こう言ってはなんだがそこは何の変哲もない町中華というやつであった。
壁にはメニューがはられており、テレビ番組が無造作に流れていた。
ご夫婦で経営しているのだろうか。厨房には店主がおり、奥さんが接客をしている。
レトロな雰囲気を醸し出し、本当にこれぞ町中華といったようだった。
夜中も夜中であったので人はおらずテーブル席へ座らせてもらう。
中華は基本嫌いではない。
その中でも好きな部類に入るものが回鍋肉だ。
「回鍋肉定食と……ハイボールお願いします」
奥さんにそう告げ、水をいただく。
酔い醒ましには丁度いい水だ。ならなぜハイボールを頼んだという話だが私自身よくわかってない。なんとなくだった。
BGMはテレビから流れる内容のみ。
厨房からは調理をする音が聞こえてき、程よい静けさが私を包む。
うん。落ち着くな。テンションが上がりすぎずかと言って下げたくもない今の気分にピッタリの雰囲気だ。
まずはハイボールが先に来て、少しだけ口につける。
濃すぎず薄すぎずといった味。丁度いい。
しかし、やはり何か食べ物は欲しいな。あまり口に付けず回鍋肉定食を待とう。
「回鍋肉定食です」
回鍋肉、ご飯、卵スープ、あとは……大根の漬物か?
「いただきます」
とりあえず卵スープに口をつける。
「ふーっ」
暖かくていい感じに落ち着いていく。中華の汁物はこういうのが多いな。
さて回鍋肉といこう。
うん。期待通りに普通の味だ。普通に美味しい。
過剰に美味いわけではない。
かと言って当然不味くもない。
ただ本当に丁度いい美味しさ。特筆する箇所もない普遍的な美味しさがそこにはあった。
勘違いしないでいただきたいがこれらは決して貶している訳ではない。
何より私が求めていたのはこんな程よい美味しさだったのだ。
美味しすぎる場合はそれはそれでありがたいのだが、仮にも飲み会で少しは食べている腹の状態であり、少々の疲れもある体ではさらに気疲れもする。
そのような飯はそれをメインとして行動したいのだ。
不味いなんて以ての外である。
しかしこの回鍋肉は飲み会というメインを終えたあとに、もう少しだけ食べたいという私の要求に絶妙にマッチしていた。
主張しすぎず、控えめ過ぎない味。
満足だ。
「ご馳走様でした」
この日の〆には丁度いい回鍋肉だった。
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