サービスのいいとんかつ屋
その日は無性にとんかつが食べたかった。
スマホでマップを開き近くにとんかつが食べれる店がないかを探す。
「おっ、あった」
家から徒歩5分程のところにその店はあった。
さっそく鞄を背負って家を出てその店に向かった。
「いらっしゃいませ」
「1名でお願いします」
「はーい。お好きな席へどうぞ」
席と言ってもカウンターしかない店だった。
内装はとても綺麗で、清掃が行き届いているのがよくわかる。
店内は静かでとんかつを揚げる音が響いている。
私は他の客とは一席開けて椅子を引きカウンターに座った。
「メニューはあちらになります」
女将さんが壁に立てかけられたメニュー表を指す。
ふーむ……
「じゃあ、ロースカツ定食でお願いします」
「ロースカツで」
ヒレカツと迷ったが今はなんとなくロースの気分だった。
店主は他の人のとんかつを作っているのだろう。
目の前の厨房で揚げられていく音が聞こえる。
良い香りだ。
肉が揚げられる香りというのはどうしてこうも腹を刺激するのだろう。
待ちきれなくなりそうだ。
「お待たせしました。ロースカツ定食になります」
私の前に、ロースカツ定食が並べられる。
メインのとんかつに付け合せのキャベツとトマト。白米。そして味噌汁と漬物。
思い描いていた定食だ。
「ご飯とキャベツは無料でおかわりできますので」
店員さんがそう告げてくれる。
嬉しいサービスだ。
ありきたりかもしれないがやはりこういうサービスは凄く嬉しいものだ。
「いただきます」
私はまずとんかつに手をつける。
一口サイズか。食べやすいのはいいな。
からし、醤油、ソースなどがあったがまずはそのまま。
美味い……!
これだ……私が求めていたものは……!
肉、脂、衣……!
それらを味わい私の細胞が喜びを告げていた。
衣はやけに特徴的なような気がする。
薄い衣だが口に残り存在感を示している。気のせいだろうか?
しかし、肉の味を損ねていない。多分凄いことなのだろう。わからないけど。
さて続いては……からしをつけて食べてみよう。
おっと……一口サイズに切っている影響か。衣がペロリと剥がれてしまう。まぁそれも一興。しっかりと箸で持ちからしをつけて口に運ぶ。
実にたまらんな……。
からしの辛味が肉の旨味を引き立ててくれる。
参ったな、ご飯が止まらないぞ。
そうやって私が定食を堪能していると。
「ご飯おかわりいかがですか」
「あ、お願いします」
女将さんが私が食べ終わったご飯のおかわりを聞いてきてくれた。
客と店員の距離が近いことのメリットか。実にありがたいな。
そんなことを思いながら食べ進んでいくと。
「キャベツおかわりしますか」
「んぐっ」
付け合せのキャベツを食べ終わった直後に今度は店主が聞いてきてくれた。
さっき揚げてなかったか。それでも私を見ていたのか凄いな。
口に含んでいた最中だったので上手く返事はできなかったがお願いしますと言わんばかりにコクコクと頭を縦に振る。
店主はキャベツをそのまま皿に乗っけてくれ、ご飯も持ってきてくれる。
サービス精神が実に旺盛だ。
客のことをよく見ていてくれてる。
実を言うと私が定食を待っている間も他の客に同じことはしていたし、私がお茶を飲み干すとすぐにおかわりを聞いていてくれていた。
その後も私が飲み干したり食べ終えたりするとひっきりなしに聴いてくれる。
しかし、過干渉ではない。不用意な接触は避け、サービスに徹してくれている。
これが実に心地よく、定食の味に集中できた。
「ご馳走様でした」
味も十分に美味しいが、こうまでサービスが良いと気分よく食べることが出来た。
良い店というものはこのようなものなのだろう。
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