塩で食べる蕎麦
私、夕雲はとある時期から食べることにハマっていた。
もちろん、ブロガーや動画投稿者程に生計を立てれる程ではないし、他県まで遠出をしてまで食べに行くというのも滅多にない程度ではあるのだが。
それでもまぁ食べることは好きだと言える。
そんな私が好きなものは蕎麦だ。
十割そば、二八蕎麦……色々あるが失礼ながら正直わからない。
それでも子供の頃から蕎麦が好きだった。
この日、私が赴いたのは地元の蕎麦屋さん。
なんでも手打ち蕎麦だそうで口コミ評価も高かった。
私は胸を期待にふくらませ店へと赴いた。
「いらっしゃいませ」
女将さん(と言っていいのだろうか)が挨拶をしてくれる。
「1名でお願いします」
「こちらの席へどうぞ。お決まりになりましたらお呼びください」
私は人差し指を指して1人であることを告げ、席へと案内される。
店内を見てみると、温かみのある木で店内は造られており、雰囲気を感じさせる。
和の心というやつだろうか。
「ん……と」
私はメニューを手に取り、眺めていく。
と言っても既に決めていたのだが。
「すいません。もりそば1つ」
そう。もりそば。蕎麦と聞いて9割以上が真っ先に思い浮かべる基本的な蕎麦。……もりそばよりざるそばをイメージする人もその中に半分位いる気もするがそこは置いておこう。
とにかく基本的な蕎麦だ。
先程も述べたがここの蕎麦は手打ちだそうだ。そして十割そば。このような蕎麦を十全にいただけるのはこういう蕎麦つゆにつけて食べる蕎麦だと勝手ながら思っている。
(先程わからないと言ったばかりで恐縮だが、流石に手打ちと市販のものとの違いはわかる程度の舌は持っているつもりだ)
「お待たせしました」
お茶を啜りながら待っていると蕎麦が運ばれてきた。
目の前にはせいろに乗った蕎麦が三段。
さていただくぞ。そう思った瞬間だった。
「お好みでお塩をつけてお召し上がりください」
塩? 塩とな。
通はそういう食べ方をするのかな。
そんな思いが駆け巡る。
この店は塩が特別な容器で置いてあり、トントンと指で叩くと適量の塩が落ちる仕組みになっている。
ふむ。せっかくだ。こういうのはお店の人のオススメに従うべきだ。
私はせいろの上に塩をトントンとまぶしていく。
「いただきます」
ズズッ……
!
美味い!
塩がいい具合に引き立ててくれているのだろう、蕎麦の風味がよく分かる……!
私は衝撃に打ちひしがれた。
こんな食べ方は今までしてきたことはなかったから。
ゆっくりと味わって食べていく。
口腔内に広がる風味に身を震わせる。
のどごしもいい。
すんなりと喉を通っていく。
「ぁぁ……」
感嘆の声が思わず上がる。
それほどだったのだ。
瞬く間に一枚目のせいろが終わる。
もうか……と寂しくなってしまう。
二枚目は塩ではなくつゆで楽しむことにした。
うん。美味い。
これが優しいつゆと蕎麦が絶妙に絡み合い口の中で拡がっていく。
山葵と葱も入れようか。
薬味がアクセントとなりより一層蕎麦の旨さを引き立ててくれるのだ。
二枚目が終わった。
次で最後のせいろだ。
続いては一緒についてきた胡麻をまぶして食べてみよう。
二つの指で摘んで胡麻をパラパラと蕎麦にかける。
おお! これはこれでいける!
蕎麦の風味と胡麻の風味が主張しあってぶつかり合う!
……胡麻がちょっと強いかな? しかし美味いことに変わりはない。
私はそうやって目の前の蕎麦を堪能していく。
そうして残ったものはあと一口の蕎麦だった。
「…………」
名残惜しい。
しかし、どんなものにも別れは来る。
私は塩を手に取り蕎麦にかけた。
「ふぅ〜……」
私は蕎麦湯を飲みながら余韻に浸る。
本当に美味しかった。
これを作ってくれた店の方にただただ感謝をするばかりだった。
「ご馳走様でした」
私は手を合わせた後、会計を済ませ店を出る。
「いやー……美味かった!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます