第11話「まるちゃんとおやじの夜」
夜。雨がやんで、街は静か。窓の外では、遠くの街灯がチラチラ光ってる。
ぼくは、秘密基地のシャツの上で丸くなりながら、目を覚ます。
今日の“大仕事”を思い返してた。カツオ缶の味が、まだ舌に残ってるけど、なんだか心がザワザワしてる。
(おやじ、今日の仕事、いつもよりなんか重かった気がする……)
おやじの背中、アニキの目。あの鋭い空気の中にも、ほんの少し、疲れた影が見えた。ぼくの猫センサーが、ピピッと何かを感じてる。
(家族として、ぼく、もっとおやじのこと知らなきゃ!)
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台所から、カチッとライターの音。おやじがいつものように、タバコをくゆらせてる。ビールの缶が、テーブルに置かれる音も聞こえる。
ぼくは秘密基地からそっと這い出て、台所の隅に忍び寄る。おやじは窓辺に立って、夜の街を見てる。その背中、アニキがいつもより静かに、じっと佇んでる。
(おやじ……何か考えてる?)
ぼくは、そっとおやじの足元に近づいて、ゴロンと転がってみた。いつもの「かまってポーズ」だ!
「……お前、こんな時間に何だよ」
おやじの声、いつもより少し低め。でも、ぼくを見下ろす目が、ほんのちょっと柔らかい。
「にゃーん!」
ぼくは全力でしっぽを振って、おやじの足にスリスリ。おやじが小さくため息をついて、しゃがみ込む。
「ったく……お前、ほんと世話焼けるな」
そう言いながら、おやじの手がぼくの頭をポンと撫でる。その手、いつもより少し震えてる気がした。
(おやじ、なんかあったんだ……ぼく、気づいてあげなきゃ!)
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その夜、おやじはいつもより長く窓辺に立ってた。タバコの煙が、ゆらゆらと部屋に広がる。ぼくは、おやじの足元で丸くなって、じっと見上げてた。
「お前さ……なんでいつもついてくんだ?」
おやじが、ぽつりと呟いた。いつもみたいに怒ってるんじゃなくて、なんか、ほんとに知りたいみたいな声。
(おやじ、ぼくのこと、気にしてくれてる!)
ぼくは、ゴロンとひっくり返って、お腹を見せて全力アピール!
「にゃー!(だって、ぼく、おやじの家族だもん! 守りたいんだもん!)」
おやじが、ふっと笑った。ほんの一瞬だけど、いつもの硬い顔が、ちょっとだけ緩んだ。
「……お前、ほんとバカだな。危ねえのに、毎回首突っ込んで」
そう言いながら、おやじはビールを一口飲んで、ぼくの横にどっかり座った。床に座るなんて、珍しい。
(おやじ、今日はなんか違うぞ……話したい気分?)
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おやじが、ポツポツと話し始めた。ぼくは、じっと耳を立てて聞いてる。
「昔な……俺にも、守りたいもんがあった」
おやじの声、低くて、遠くを見るみたい。ぼくのしっぽが、ピタッと止まる。
「でも、失った。全部、俺の手から滑り落ちちまった」
おやじの手が、タバコを握りしめる。アニキの目も、なんだか悲しそうに光ってる。
(おやじ……その話、初めてだ……)
ぼくは、そっとおやじの膝に頭を乗せた。言葉は分からないけど、ぼくの気持ち、届いてほしい。
「で、お前みたいなのが現れて……ほんと、めんどくせえよ」
おやじが、ぼくの頭をクシャッと撫でる。その手、いつもより力強くて、でも、温かかった。
(おやじ、ぼくのこと、認めてくれてるよね?)
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その夜、ぼくはおやじの足元で、いつもより近くで丸くなった。おやじは、ベッドに入らず、ソファでタバコを吸いながら、じっと夜空を見てた。
(おやじ、ひとりじゃないよ。ぼく、ずっとそばにいるから!)
夢の中で、アニキがでっかく吠えて、ぼくにこう言った気がした。
「マル、いいぞ。おやじを頼むな」
ぼくのしっぽ、寝ながらもピコピコ動いてた。
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次の日。
おやじは、いつも通りカリカリを皿に盛ってくれる。でも、今日はなんか、特別なものが!
「ほら、マル猫。今日は特別だ」
皿の横に、ちっちゃい魚のオモチャ! おやじが、ぼくのために買ってきてくれた!
(おやじ、めっちゃ照れてる! 絶対、昨日の夜の話のお礼だよね!)
ぼくは、魚のオモチャをくわえて、ゴロンゴロン転がりまくる。おやじが、くすっと笑う。
「……ったく、ほんとバカな猫だ」
その声、いつもより優しかった。
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でも、ぼくの猫センサーが、またピピッと反応した。おやじのコートのポケットに、重そうな“何か”がチラッと見えた。
(おやじ、また“大仕事”なんじゃ……)
ぼくは、秘密基地に戻って、シャツの上で丸くなりながら決めた。
(次も、ぼく、おやじのそばにいる! だって、ぼくは、おやじの家族だもん!)
……でも、あのときのぼくには、まだわからなかったんだ。おやじが、どんな想いで夜空を見上げていたのかなんて——
~つづく~
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