第10話「小さなヒーロー」

夜。港の近くの倉庫街の余韻が、まだぼくのしっぽに残ってる。


おやじと一緒に家に帰って、秘密基地で丸くなりながら、今日の“大仕事”を反芻してた。


(ぼく、ほんとに役に立ったよね……? おやじのピンチ、ちゃんと助けられたよね!)


サバ缶の味が、口の中にほんのり残ってる。いつもよりちょっと豪華なご褒美だったから、ぼくの猫センサーは「大成功!」って叫んでるけど、でも、なんか心のどこかでモヤモヤしてる。


おやじのあの目。あの低くて、ちょっと冷たい声。銃を構えたときの、鋭い空気。


(おやじ……ほんとは、どんな気持ちで仕事してるんだろう?)


ぼくは、秘密基地の古いシャツの上で、くるっと一回転。考えるのは得意じゃないけど、家族として、おやじのこと、もっと知りたいって思うんだ。


---


翌朝。


いつもより少し遅く、ぼくは目を覚ました。秘密基地の隙間から、朝の光がチラッと差し込んでくる。


台所からは、いつものカリカリの音。でも、なんか今日は、おやじの動きがいつもと違う。


「おい、マル猫。メシだぞ」


声はいつも通り無愛想だけど、皿にカリカリを盛る手が、なんだか少し重そう。肩も、いつもよりちょっと落ちてる気がする。


(おやじ、疲れてる……? それとも、なんかあった?)


ぼくはパクパクごはんを食べながら、チラチラおやじを観察。コートを羽織って、玄関で靴を履くおやじの背中には、アニキがいつも通りドーンと構えてるけど、今日はそのアニキも、なんだか静かに見える。


「今日は……大人しくしてろよ、マル猫」


おやじがそう言って、ドアを閉めた。カチャッと鍵の音が響く。


(んー、なんか気になる! おやじ、今日はいつもより“仕事の顔”が強いぞ!)


ぼくのしっぽが、ピコッと動いた。野良時代の勘が、ピピッと警告を発してる。


(よし、今日もおやじの後をつける! ぼく、家族として、ちゃんと見守るんだ!)


---


おやじの後を追って、ぼくはまた“尾行モード”発動!


今日は、街の外れにある古い工場地帯。錆びた鉄の匂いと、遠くで響く機械の音。空気がちょっと重くて、ぼくの毛がピリッと立つ。


おやじは、工場の裏口に立つ大きな男と話してる。男の声が、ドスンと響いてくる。


「例のブツ、持ってきたか?」


おやじは無言で、バッグから小さな包みを渡す。男がニヤッと笑って、中を確認する。


「へっ、さすがだな。いつもキレイな仕事しやがる」


(ブツ……? なんだろ、それ。なんか、めっちゃ怪しい雰囲気!)


ぼくは、工場のフェンスの上から、息をひそめて覗き込む。おやじの顔、いつもより硬い。アニキの目も、キラッと光ってるけど、どこか遠くを見てるみたい。


そのとき――!


ガシャン!


工場の裏で、金属がぶつかる音がした。おやじと男が一斉にそっちを向く。


「誰だ!?」


男が吠えて、懐から何かゴツいものを取り出す。ぼくの心臓が、ドキッと跳ねる。


(やばい! おやじ、ピンチ!?)


でも、おやじは冷静だ。ゆっくり手を挙げて、男を落ち着かせる。


「待て、ただの野良犬か何かだろ。気にすんな」


(おやじ、めっちゃ落ち着いてる……! さすが、かっこいい!)


でも、ぼくの猫センサーは、まだピリピリしてる。なんか、この場、ただの“仕事”じゃない気がする。


その瞬間、ぼくの目に飛び込んできた――フェンスの向こう、影が動いてる!


(あれ、人!? 誰か隠れてる!)


野良時代の反射が、ぼくを動かした。フェンスを飛び越えて、影のほうへダッシュ!


「にゃーっ!」


ぼくの叫び声が、工場地帯に響く。影がビクッとして、慌てて逃げ出す。黒いフードをかぶったやつで、手には何かキラッとしたものが!


(ナイフ!? おやじ、狙われてる!)


ぼくは全力で追いかける。野良時代のスピード、フルスロットル! フードのやつが、足を滑らせて転ぶ。


「くそっ、なんだこの猫!?」


(ふふ、まるちゃんの正義のタックルだ!)


その隙に、おやじが動いた。サッと銃を構えて、フードのやつに近づく。


「お前、どこの差し金だ?」


おやじの声、めっちゃ怖い。でも、ぼくには分かる。あの声の裏に、ほんの少しの“安心”がある。


フードのやつは、震えながら何か叫んでるけど、おやじは冷静にその腕を縛って、ポケットから携帯を取り上げる。


「これで、しばらく大人しくしてろ」


おやじがそう言って、男を工場の柱に縛り付けた。


---


帰り道。


おやじは、ぼくをまた脇に抱えて歩いてる。今日は、なんとカツオ缶! ぼくの鼻が、テンションMAXでピクピクしてる。


「……お前、ほんと、なんで毎回ついてくんだよ。危ねえって言ってるだろ」


おやじの声、いつもよりちょっと柔らかい。ぼくは、サバ缶をくわえたまま、ゴロンと転がってみせる。


(ふふ、ぼくの活躍、今日もバッチリだったよね!)


「……ったく、どこまで世話焼かせんだ、このマル猫」


おやじが、ぼくの頭をポンと撫でる。その手、いつもより長く、ぼくの毛に触れてた。


---


家に帰って、秘密基地で丸くなる。


(今日も、おやじを守れた! ぼく、ちっちゃいけど、ヒーローだよね!)


夢の中で、アニキがでっかく吠えて、「マル、最高だぜ!」って笑ってくれた。


ぼくのしっぽ、寝ながらもピコピコ動いてた。



~つづく~

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