第一章 夜蝶
一
夜道。
昼間は人々で賑やかな街も陽が沈むと人々も棲家に帰り街は静かな闇に包まれる。それは深海なり未知なる世界の始まりなのかもしれない。
塾帰り制服姿の女子高生、
凛音は早く家に帰りたいと思い近道としてビルとビルの間の隙間を抜ける選択をした。これが幸か不幸かは彼女は目撃した。
地面には首を切られ死体となった見慣れ制服の女子高校生。目は見開いたままこちらを向いている。ぞっと背筋が凍る感覚が走り額に冷や汗が頬を伝う。
その横に立つ右手に刀を持った男。
男の周りを紫の光を放って舞う数匹の蝶。
彼女の方を向いて、
「早く行った方がいいぞ」
と、無表情で問いかけた。
輪廻は踵を返して路地を出て無我夢中で走った。呼吸をするのも忘れるくらいに気付いたら自分の家の玄関の前に立っていた。彼女は親指の爪を噛んで心を落ち着かせて玄関の扉を開いた。
「ただいま」
部屋の奥から柔らかな女性の声で、
「おかえり」
さっき見た事など無かったように工藤凛音は日常に一時的に戻った。
路地裏死体の前。
「
紫の蝶を肩に止めた男は縁と呼ばれ死体に目を向けたまま、
「また人間をそそのかせて遊んでるのは間違いないよ。切る瞬間にうっすらとまだ匂いが残ってる。最初の一人よりは全然匂いもないから、人間も手慣れてきてるだろうね」
声をかけてきた方に目を向けて、
「それにしても
そこには金髪で黒いサングラスをかけたスーツ姿の男が煙草を吹かして立っていた。
「そういうなよ、魔除け、魔除け。俺はお前みたいに力がある訳じゃないんだからな」
縁の頭に右手を置いてくしゃくしゃと撫でた。
「それにしても今までの死体は幸せそうに目を瞑って微笑んでたのに、これは目が見開いて驚いてる感じだな」
縁は英雄の左手を頭から払って、
「犯人は同じだが、多分これは知り合いだった可能性、それか衝動的か……」
英雄は辺りを見渡した後、被害者の制服を見て微笑みながら、
「まぁ、丁度いいな今回はこの街に留まる予定だったしな」
英雄は煙草を握りつぶし手の中で灰にして遺体に巻き両手を揃えて祈った。
「よし、縁は先に帰ってろ連絡はしておく」
「はいよ」
と、返事をして縁はその場を後にした。
見送った後で英雄は管轄の警察に連絡を入れて警察が来るのを待った。
夜空を見上げて雲一つない満月に照らされた明るい空は行き場のない者達を導くように感じられた。
誰もが忘れた過去は確かに存在する。
誰かが消した過去は確かに存在する。
それと同じように未来もまたやってくる。
英雄は煙草に火をつけて吸い込んだ煙を肺から思いっきり空に向かって吐き出した。
一瞬で煙は消えた明るい夜空だけが広がった。
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