二 変わらぬ日常
いつもと変わらない朝。
昨晩見た事などなにも無かったように工藤凛音は目を覚ました。
よく眠れた。
何も変わらない日常に溶け込んで行く。
同じ制服を着た首の切られた女子高生の見開いた目を思い出すが、どこか映画のワンシーンのように実感はない。
ベットから起き上がりパジャマのままリビングに出て母親に、
「おはよう」
と挨拶をし朝ご飯の用意されたテーブルに腰掛けた。
テーブルの上にはトーストとマーガリン、コーヒーがありコーヒーに口をつけた。
程よく暖かい飲み物が喉を通る感覚、それが体内を下へ流れていく道筋には生きているという実感がある気がして凛音は好きだ。
見るものはないが母がつけているテレビの朝のニュースが流れている。
そこで凛音は違和感を覚えた。
この地域で起きている連続殺人事件の話題になったのだが昨日、自分が目にした死体の話は出てこないのである。
やはり夢だったのか、錯覚だったのかと少し歯切れの悪い感触が心の中に生まれた。
それから歯磨き、洗顔をして制服に着替えて学校に行く為に家を出た。
凛音は自らが通う高校。
すれ違う生徒と挨拶を交わして2-Aと書かれた教室に足を運んで自分の席に着席する。
チャイムが鳴り、席を離れて談笑をしていた生徒も席に座り教室のドアが開いて担任の教師が入るりその後ろに見慣れない男子生の姿がついて入ってきた。
そこで凛音は目を見開いて鼓動が早くなる。全身の毛穴が開いて冷や汗が溢れ出す感覚に襲われた。
その男子生徒は昨晩の路地裏に立っていた男にそっくりだったからである。
いや、同一人物で間違いない。
昨夜、記憶が鮮明に脳裏に蘇る。でも、ニュースもやっていない、同じ制服の女子高生だった。それなのに誰もその話題にすら触れていない。死人が出たとなれば騒がなければおかしい。
色々な不安が頭に浮いて出てくる。
教師の挨拶の言葉が終わり隣の男に自己紹介を促した。
男は口を開いて、
「 どうも、
と、淡々と落ち着いた声で居心地のいい低音が教室に響いた。
その声で凛音は確信に変わった。昨晩の男は十条縁で間違いない。
教師に指定された使われていない空いてる窓側の一番後ろの席に着席した。凛音の真反対の席。
凛音はチラリと縁の方に顔を向けたが縁は窓の外を眺めていた。
窓の外は学校のグラウンドと正門が見える。
すると視線に気付いたのか凛音の方に顔を向け、目が合うと軽く会釈された。
凛音はさらに戸惑った。
やはり、昨晩の事は夢なのか、、、、、、。
休み時間になり、数人のクラスメイトが縁のもとに集まり色々な質問を投げかけている。
凛音は聞き耳を立てて聴いてみる。
「どこから来たの? 」
「彼女いるのとか? 」
お決まりの当たり障りのない言葉をなげかけた。
縁はそれに対して、
「いわゆる、転勤族みたいなものだからあっちこっちを転々としてるかな、こんな生活だから残念ながら恋人なんていないな」
愛想笑いを作って一つ一つの質問に丁寧に答えている。まぁ当たり障りのない話でなんの興味も湧かないので呆れた。
「つまんなそうだね、工藤さん」
そういって後ろから声をかけてきたのは、この学校の中で一番優秀と言われている
男子なのだが女の子ような容姿で美男子そのもので男子女子問わずにモテるのは決まっている事なのだろう。
「なんのよう、エンル? 」
「君があの転校生に興味がありそうなんで声かけたのさ」
円流は悪戯に笑って話しかけてきた。
「別にそんな事はないわ」
呆れたように言い放った。
円流は笑って、
「まぁ、何かあったら言ってよ。僕はいつでも街の境界にいるからさ」
「その時はお願いするわ」
円流はそう言って笑って自分の席へ向かった。
円流は街の境界でボランティアとして休みの日は活動している。凛音も何度か足を運んだ事があり、笑顔は優しさに溢れておりとても信頼できる姿に映った。
チャイムがなり各々は自分の席に戻って授業の始まりを告げた。
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