マジでIQが上がる方法

加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】

謬見と偏見からの離脱

 ──マジでIQを上げる。


 その方法は、普段しないことをする、ことを心がけること、に尽きる。つまりは「逆張り」をすることである。人には、盲点スコトーマというものがある。それは視覚的物質空間的な意味でもあるし、脳内的抽象感覚的な意味でもある。盲点スコトーマは、まだ見ぬ世界であり、可能性であり、伸びしろである。いつもと同じ、ルーティンワーク、居心地の良さ、それら安寧の平穏無事を徹底的に破壊し、逆張りをする。そうして盲点スコトーマをなくしていくのである。

 一般に、人の目に見えるものはせいぜい、一の可視点のみである。残り九十九の不可視点が存在するのだが、それら九十九を「不可視」であると思い込んでいるうちは、盲点スコトーマはなくならない。盲点スコトーマを、本当は見えるけれど今は見えていないもの、として次元段階を上げてやることにより、未知の可能性が開ける。

 盲点スコトーマをなくすとは、すなわち観察である。その観察は、零次元の点的にではなく、三次元の空間的に実施されねばならない。観察の結果物が空間の様相をなすには、一点では決して足りない。だからこそ九十九の、今は不可視の点を得る必要があるのである。

 視点、見る、観察。頭部眼孔に埋まる眼球を使うことを言うように聞こえるかもしれないが、必ずしも、いわゆる視覚のみを使って可視化を試みるわけではない。五感、ひいては六感を使うのである。

 例えば、いつもの教室、いつものオフィス、いつものリビングの座席に着く。慣れ親しんだそれらを観察することを、人は軽視、いやもはや完全放棄しがちである。そこで、今己が身を置く空間全てを見て理解する心意気で、感覚を研ぎ澄ます。己は場、場は己である。

 するとどうだろう。普段は聞こえない、座席と己が身との衣擦れ。普段は香らない、座席の素材──木の、プラスチックの、布地の──におい。普段は見えない、テーブルや机、天井や壁の染み、蜘蛛の巣、とるに足らぬ塵。吸気の冷温、乾湿、味。触れるもの全ての質感、ざらざら、つるつる、凸凹、濡れ、円滑。今日はそこにマグカップはないが、昨日はそこにあった。そこにはコーヒーが入っていたので昨日のここは、香りが違った。よく見るとこの染みはコーヒーの茶色ではないか。乾いている。指で擦ると染みは落ちる。指先に汗をかいているのか? 室温は、湿度は高いのかもしれない。このあとテストだ、商談だ、緊張の汗かもしれない。そこの扉が少し開いている。隙間がある。その深淵から何かに見られている可能性はないか? そう思うと落ち着かない。よく耳をすませばひゅうと風の音。窓も開いている。部屋の空気がやけにうまいと感じたのは、風の入り口と出口があったからだ。カーテンが揺れる。ドアが揺れる。己が身の皮膚が風に曝露し、産毛が揺れる。風向きがやや東にそれたか。座席も揺れる。これは地震か? そうではない。ここは建物の五階だ。一階で何か大きな動きがあったのかもしれない。この世界は、静ではない。動である。瞬間瞬間をうつろう、無限の秩序の更新に沿うように、物質が、空間が、変わるのである。

 かつて盲点スコトーマだった無限量の情報が、やがて己が身に憑依する。それは不可視を可視するという逆張りを通じて得られる。まず質より量。いずれ量は質となる。かつての己が低程度の認知限界により可哀想にも分節されてしまっていた世界は、不可分節の無限の階調として心に入力され、前後左右三六〇度三次元的全六感的観察がなされ、全てがみえる、わかるのである。

 それすなわち、IQの向上である。

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