第2話

 涙ぐましいニューロンのイライラ棒は、最終的に何か絶対的な爆弾を開示したかに思えたが、飽きてしまって席を立つ、というその仕方を永劫の脱出劇の対価として想起し、という訳だから今、ようやく目を覚ます。

 あらゆる意味で過敏になった手の平は、それ自体微妙に奥行きを携えた画面の目まぐるしい流砂、高熱によって見やすくなった原印象を握り固めることを欲していただろうが、ふと痙攣させた指先に垣間見えたアセチルコリンの大演目が鬱陶しくて、やめてしまう。やめてしまうということが奇跡的に達成される。

 何であれ定義不足のままに目を覚まし、この横たわるベッドにおいて、横たえたというらしき何者も不在であった。

 今はもう起き上がって、この目覚めた時点での部屋の使用目的からはかけ離れた想定外の歩行、つまり夜が責任を負わなかったものとしての私が動き出した。

 私はたった一人でたった一人のこの男を起動させたのに、結局誰もそれをせよとは言わなかったのに、それだから、誰も私を見守らぬその内にこの複雑怪奇な配線を完成させ、今朝をようやく映し出して見せたというのに、たった一言を言ってくれる何者かがこの部屋にはいない。ああ、それは私であるか。

 ただこの部屋の的外れな物体は、ただそれしか無かったからである。それだから、それをした。コンセントがそれを繋げさせたというまでであって、我関せず。この素知らぬ顔に、今朝というもの、私というものを説明してくれる何者かが一体いつになればドアを開けるか。

 ドアは開かなかった。ドアは有るのであるから、開けねばならない。それは私にそれをさせねばならない。私はまた、有るのであるから。

 廊下に出て、今朝に初めて目を覚ましたという男に出会う。彼はといえば、未だ起き上がることをせず、ただ目を開けているというだけである。それを見て驚き駆け出す看護婦的な何かが期待されているのだろう。やはり目が合うが、私はそれではないので通り過ぎる。私もまた、それを探しに行くところなのだ。

 空が画期的な色覚で以て興奮させた例など無いので、驚かぬ私は鈍麻しているということをどうして認めなくてはならぬのか。今朝、私は私を見て驚かなかった空に対等であらねばならない。向こうから何かを言ってくるまで、私はいつでも、そんなことは聞いていない、のである。私はまだ何もすべきではない。しないということもまた。

 気付けば、というのも、ここに至ってようやく目を覚ましたと言って差し支え無い限りで、同じ様にそう言うとすれば、今朝は通行人というものを初めて見た。今ここに、既に人というものが在ったのである。ああ、私はそれであるか。

 私はここで、今朝というものの前に対する一切の発言権を喪失したのである。私は、皆もまた同様であるというそれだけの単純な説明によって、敢えてそれとして説明される機会を失ったのである。あらゆる昨日見た事件に対する驚嘆は、ここにおいて時間と場所を占める限りに既にそうであるから、それだけである。目を見張るべき私は平等に見過ごされ、今はただ、私である。

 それという訳で、今朝という見知らぬ場所についての説明役は共通にいないのが普通であると知り、私は、彼ら、というものにならば口を開いてもいいと思えたのである。それで今私は、彼らの前で何かを言わされるというところ。

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