らずらど、祓屋と物書きの奇妙なお仕事

エィケイ

第1話 都会に着く

糸目の男が、電車に座っていた。

名前は、山内雄太。

実家が悪霊や妖怪を祓う生業をしている。

今回は初の上京、そして住み込みで働くということで荷物が多い。


本来は、今日から勤める仕事先の雇い主が運営しているwebサイトの連載モノの作品らしいが、「試しに纏めてみたので、読んでほしい。」ということで、添付ファイル付きのメールが送られてきた。

自分のスマホだと大丈夫だと思うが、念の為ウィルスチェックした上でダウンロードすることに。

 

だが、そのドキュメントファイルの内容は心が荒れる内容であった。

実際、読み進めるたびに心が荒んでいく。

嫌な顔をしながら、ページの最後に書かれている文を読んだ。

 

--

 

君が「気づけてよかった」記念日はいつ来るのかな?

きたら教えてよ、今までのお礼に

とびきりおいしいパイを、顔にぶつけてあげるから。

それとも、君の大好きな熱々のコーヒーもセットの方がいいかな?

全力でお祝いしたいんだ。

 

おめでとう、ろくでなし! ってね。

 

(楽図楽度(らずらど) 「インスタント悪意」 62頁目 -記念日はいつかな? - より)

 

--

 

 「うぐ...」

 青年は電車の座席で、スマホにダウンロードした本を読んでいた。

 だが、気が滅入る内容なのか顔を顰めていた。

気を取り直して、だいぶ疲れた顔でスクロールしていく。

「次こそ、まともなの内容の文が来てくれ...」

 だが、次のページに書かれている文の内容も

 またも、悪意しか書かれていなかった。


---

ただ、ただ、生きる。

ありきたりな言葉である。

その言葉の通り、意味など目的などとなく、ただありのままに生きていくのだ。


そもそも、目的などいるのだろうか。

生きるとは、呼吸なのだ。

金も稼ぐのも、なにか食べるのも、娯楽に耽るのも、寝るのすら

呼吸なのだ


だが、呼吸と認識するのをやめた時

あるいは呼吸を生きがいとなってしまった時

そして、呼吸をすることを自分で選んだ場合

人は、どうなるのだろう


「滅び」だ、滅びなのだ

呼吸に無駄なラベルを入れ、生きることに意味を定義づけ、アイデンティティにしたのだ。

 

意識したのであれば、呼吸ではなくなる。

吸う息を自分で制限したのであれば、なくなれば滅びである。

 

肉体も精神の呼吸を「自分」制限したのだ。

「誰か」では無い、全て「自分のせい」なのだ。

「自分」が決めたのだ、「自分」が「悪い」

泣き喚いても、無駄なのである。

無意味なのである。


諦めて、潔く滅びるのが吉なのである。

いや、滅びたくないから、大凶なのだろうか?

 

なんにせよ、呼吸が楽になることを祈る。

吸う息を制限するなんて、生きてくだけで、苦しくなるだけだから

(楽図楽度(らずらど)「インスタント悪意」 64頁 「生きるとは、呼吸である」 より。)

----

 

 (シュッ)

 

 まだ途中だが、フリックしてアプリ終了した。

「読むんじゃなかった....」

 そう雄太ははこう呟いた。

 

 気晴らしに普段読まない本を読んだつもりが、あまりにも...「クソ」みたいな内容、人間を憎み、嘲笑い、乏しめる、逆撫でするように気遣いする。等

 その場のノリの思いつきで書かれた悪意の応酬に心が荒みそうになる。

 面白く無いの「クソ」ではなく、不愉快の方の「クソ」である。

 

 ....彼からしてみたら、時間を潰せる娯楽を読むつもりが心が滅入る拷問だった感覚だ。

 

「全く、なんでこんなのを渡されたんだろうな...」

 と興味本位で貰ってしまった自分を後悔していた。


 職場に向かうまでの暇つぶしのつもりが、まさか読む進める度に自分にストレスを与えるほどに嫌な内容だったとは思わなったのだろう。

 

「いや...、興味本位で受け取った俺の自業自得か...」

 本人からしたら「...まぁ、ジョーク本か何かだろう」という軽いノリで受け取った

 彼は元々本はそこまで読まないし、読むとしてもこんなネガティブなことがつらつらと書かれた本は読まない。

 読んでいるにはもちろん理由がある。

「この悪意まみれの内容が、俺の...退魔師の仕事に役立つってどういうことなんだ...」

 

 ----

 次は...

 

 降りる駅のアナウンスが聞こえた。

「今は余計なことは考えず、職場に遅刻しないようにと考るか...」

 目的地の駅を降ると、改札口を抜け、喧騒とした都会の街並みにある大型のゲームセンターの二つ隣にあるビルがそうらしい。

 まわりを見渡しながら彼は呟く

 

 「....それにしても都会は凄いな、皆のいう通りだ」

 電車...彼の地元だとモノレールにあたる乗り物も数分置きにすぐ来るし、田舎だとTVでしか見たことがないようなチェーン店や高層ビルの中にある居酒屋チェーンや飲み屋なども多くて新鮮な気分。

 

 両親や祖父母が時々仕事の出張以外にも、息抜き夫婦旅行で都会にいくこともあったが、その時の楽しい話を聞かされていたので興味を持っていた。

「....でもじいちゃんは所々微妙な反応だったな。都会は好きそうだけど、待つのが苦手だし」

 ファミレスや、居酒屋とかも、人気があるところはすぐ混むから、困る。

 そう祖父がいっていたのを思い出した。

 祖父は食べるのは好きだが、満席だった場合の空き待ちが15〜20分でも待つのがわかると躊躇してしまうタイプだ。

 だから都会は好きなのだが、外食はしたくらないらしい。ファミレスや居酒屋は好きだが、待つとなると話は別だ。その待つ時間で他の店を探した方がいい性格だった。

 そのせいか、祖母や両親からは「お父さんと一緒に県外の出張は行きたくない」といわれてたのを思い出して笑ってしまった。


「でも、確かにこんなに色々あったら、待つよりも他の店に行こうってなるな」

 地元と違い、飲食店や居酒屋は多い。

 満席の店で30分待つよりも、空いてるところで食事をしたいという祖父の気持ちもわかってしまう。

 地元だと、テレビでしかみたことが無いファミレスやファーストフード、カフェなども多く目移りしてしまうが、今は事務所に向かうのが先だ。


「とりあえず、事務所についたら、昼飯でいいところないか聞いてみるかな。」


 そんなことを考えながら、事務所に向かっていった。

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