第6話
レイは心を決めた。
「申し出を受ける。ともに勇者を探そう」
「そこまで熱心に勧誘されたらしかたないわね。仲間にしてあげる」
デルフィナが上から目線でうなずく。
熱心に勧誘した覚えはまったくないし、そもそも誘ってきたのはそっちなんだが、とレイは苦笑いした。
「よし。それじゃ駐屯地に戻ろう」
「どうして?」
「どうしてって、傭兵を雇うんだよ。そのつもりだったんだろ?」
「そうだったけど時間のムダ。全員査定したけど、ろくな人材がいなかったわ」
「査定……あれが?」
顔がどうとか理不尽なことを言っていたようにしか見えなかったのだが。
「それに、あなたがいれば戦士はもう足りている」
「評価してくれるのはありがたいけど、傭兵には戦闘以外のことを得意にする人間も多い。優秀なやつを何人か知ってるんだ」
「時間のムダだと思うけれど。まあいいわ。付き合ってあげる」
2人は駐屯地に戻った。
レイは顔見知りの隊長に声をかけ、目当ての傭兵たちの所在を尋ねた。
「悪いがまともなやつはみんな出払ってる。このご時世だろ? できるやつは引く手あまたでなぁ」
「ほらね?」
デルフィナが勝ち誇ったような顔をする。
レイは肩をすくめた。
「じゃあ行きましょ」
「行くって、どこに?」
「冒険者の酒場。盗賊を仲間にしたい」
「盗賊か……ありだな」
たしかに情報収集や交渉ごとは盗賊の得意分野だ。
盲点だった。
スイングドアを押し開けて入ってきたレイとデルフィナに先客たちから無遠慮な視線が飛んでくる。
しかし戦士と魔法使いというありふれた取り合わせに関心を失い、客たちは元に向きなおった。
まだ昼前だというのに、ルシールの酒場はかなり賑わっていた。
冒険者が集うことで有名な店なのだが一般客もいる。
「意外に静かね」
酒場内を物珍しそうに見渡したデルフィナはどこかがっかりした様子だ。
「まだ昼だからな」
「つまらないの。酔っ払いの乱闘が見れると思ったのに」
「冒険者をなんだと思ってるんだ」
「無法者ギリギリのグレーゾーンの輩」
偏見まみれの物言いにレイは苦笑した。
冒険者たちが昼間からここにいるのは情報交換や話し合いのためであって、酔っぱらうためではないだろう。
もっとも、そういう輩もいるようだが。
「4人に決まってんだろうが!」
「いーや5人ら!」
数人でテーブルを囲んで杯を手にした連中がなにやら声高に議論している。
赤ら顔にろれつの回らない舌。
あの杯の中身は水や茶ではないだろう。
酔っぱらい連中を横目にしつつレイとデルフィナはカウンター席に座った。
すぐに奥からロングドレスを着た、長い髪の色っぽい女が出てきた。
肩と胸元を露出し豊満な胸の谷間が強調されているが、それでいて下品ではない。
美人と評判の女店主ルシールだろう。
この美人店主を目当てにしてここに通う冒険者も多いらしい。
「あら、その鎧って王宮戦士さんよね? こんなところにお出ましになるなんて珍しいわね」
ルシールが一目で素性を察したので、レイは少し驚いた。
一般兵と違い王宮戦士の姿を市民が目にする機会はほとんどない。
王城の訓練場で訓練するか、任務で街の外にいるかで、王都をうろつくことはほとんどないからだ。
この鎧を知っているとは、情報通として知られるだけのことはある。
期待できそうだ。
「それで、ご用向きは?」
「腕のいい盗賊を探してるんです。だれか心当たりは……」
ルシールが子どもを見守る母親のような笑みを浮かべていたのでレイは気恥ずかしくなって途中で言葉を切った。
冒険者にとって情報は財産にも等しい。
当然、彼らを相手に商売する者にも。
本来ならそれ相応の料金を払うべきなのに、注文もせずに斡旋を頼もうとしたのはさすがに無作法だった。
レイは朝食がわりの料理を、デルフィナは果実酒と適当なつまみを注文して代金を払った。
「ふうん。勇者様探しのおともに盗賊をね……」
ルシールは小首をかしげてレイの鎧に視線を向けた。
「何か問題が?」
「相性がね……王宮戦士さんと関わり合いになりたいって盗賊はあまり多くないでしょうね」
盗賊は時には法に触れる行為もするのだから官憲と関わりたくないのは当然だ。
レイも鎧を着てくるかどうかは迷ったのだが、必要な人員を集めたらその足で王都を発つつもりだったので、どこかに預けるわけにもいかなかったのだ。
「あ、そうだ! 1人いた。とても腕がよくて、王宮戦士さんでもかまわないって言いそうな人が。その人も長いこと仲間にしてくれるパーティを探してるから」
レイは怪訝に思った。
冒険者業界には詳しくないが、腕のよい人物ならすぐに仲間を見つけられそうなものだが。
人格に問題がある可能性もあるが、そんなやつを業界で信頼されているルシールが斡旋するわけがない。
何か複雑な理由がありそうだ。
「今、いますか?」
「今日はまだ来てないわね」
そのうち来るわ、とルシールはその場を離れた。
待つ間、レイはさきほどの酔漢たちの議論に耳を傾けた。
積極的に聞き耳を立てたわけではない。
連中が酒場中に響きそうな大声で話しているせいで嫌でも聞こえてしまうのだ。
どうやら勇者レアルのパーティ人数をめぐって意見が割れ、4人とか5人とか互いに主張しあっているようだ。
レアルは魔王との戦いで壮絶な相討ちを遂げたと伝えられている。
本人の口から旅や戦いの詳細が語られなかったせいか、生前のことには曖昧な点が多い。
「くだらない。レアル様のパーティは4人に決まっているのに」
おいしそうに喉を鳴らして果実酒を飲んでいたデルフィナが杯から口をはなすなり言い切った。
「そうなのか?」
「ええ。勇者レアル様、大魔法使いマリンズ、僧侶オリオル、それに名もなき戦士。これで4人。議論の余地はないわ」
「ところがね、5人目がいたって説もあるのよ」
料理を運んできたルシールがそのままカウンターに前かがみになる。
胸元がおおきく開いたドレスの谷間からたわわな双丘がこぼれそうになったのでレイは目のやり場に困った。
とはいえ見せつけてきたものから目を逸らすのも逆におかしい。
失礼になるかもしれないので、気にせず目の保養をすることにした。
「5人目? ルシール。荷物持ちでも勘定しているの?」
「いいえ。あなたたちが探している職業と同じ人よ」
「盗賊……? それはありえないわ」
デルフィナが腕組みする。
「レアル様は幼少期から英才教育を受けた品行方正なお方。盗賊を仲間にはしない」
「そう?」
「そうよ」
「だって、ここにいる王宮戦士さんも盗賊を必要としているんじゃないかしら?」
「まぁそうですね。べつに俺は品行方正じゃないですけど」
レイは曖昧にうなずいた。
名家に生まれ育った者が多い戦士たちと違って誰に憚ることなく生きてこれたほど身ぎれいではない。
食糧を得るために人を傷つけたことは何度もある。
だからこそ理解できる。
魔王の討伐という人類史上最大の困難に挑もうとする人物が、仲間にする者の能力よりも素性のクリーンさを優先するとは思えない。
5人説は現実的にあり得る話だ。
「まあ、あくまで説よ。3人だったって言い張る人もいるくらいだから……あ、来た。あの子よ」
ルシールの目ざとい視線につられて入口に目を向けると、小柄な少女が入ってきたところだった。
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