第3話 嘘つきな自分
学校に通っていた頃は、始まってほしくなかった『夏休み』が始まった。
何もない田舎でも、小学生達が夏休みの話題で盛り上がっている。
(……今までは、夏休みなんて来てほしくなかったのにな。)
ボクはそんな事を思いながらも、楽しそうに話している子ども達を眺める。
「お姉ちゃん!俺コレにする!」
「はいはい、おこづかいは足りてるの?」
ボクは高校を中退した後、少し寂れた駄菓子屋でアルバイトをしていた。本当ならコンビニとかで働きたかったけど、自転車で行けるような距離じゃなかった。男の子からお金をぴったり受け取ると、男の子は友達と元気に走って行く。
「転けるなよー。」
ボクは頬杖をつきながら、軽く手を振って見送った。子ども達が帰ってから、お店の中がシンと静かになる。
「……。お婆ちゃんは旅行で暫く居ないし、家に帰ったら畑に行ってみようかな。」
一人で居ると美空の事を考えてしまう。自分から突き放して、一方的に別れを伝えた。それなのに、朝から晩まで考えてしまう。
「……んんあぁ〜〜っ!もう、いい加減ボクもこれからの事を考えないといけないのにっ!!」
ボクは1人で頭を抱えながら頭を悩ませていた。
ここでアルバイトをしてても、生活していけるかと言われるとかなりキツい…。やっぱり原付の免許を取りに行ったほうが良いのだろうか…。でも免許を取りに行くのにも、またお金がかかるし……。何をするにもお金が必要になるので、ボクは一人でずっと考えてしまっていた。
「……まだ野菜は畑を続ければ、どうにかなるはずだし。問題はお肉か……。」
一人で真剣に考えていると、後ろから頭を軽く叩かれる。
「畑もずっと野菜を作れるわけじゃないし、そもそも素人が管理しても上手くできないよ。」
「あ、おかえり。マコトちゃん。」
ボクが働いてる駄菓子屋の店長の子どもで、中学生の女の子のマコトちゃんが帰ってきていたらしい。。
「今日も勉強お疲れ様。」
「夜空さんも、お疲れ様。ていうか、お客さん居ないからってブツブツと独り言言うの止めてよ。何か怖い。」
「ごめんね。何か考えてないと、少し前までの事を思い出しそうになっちゃって…。」
マコトちゃんは少し目を細めながら、ほっぺたを引っ張ってくる。
「いはいっへ……。」
「貴女が何を考えてても私は気にしないけど、昔と違って、貴女の周りには相談に乗ってくれる人が居るじゃん。」
真剣な顔のマコトちゃんの言葉にボクは感動しながらも、ほっぺたをずっと揉み続ける手を止めさせた。
「そういえば夜空さん。最近ずっと店番してくれてるよね。」
「そうだけど、どうかしたの?」
「父から伝えるように言われたんだけど、1週間ぐらいお休みして大丈夫だって。」
「1週間も?でも、おじさん達も他の仕事で忙しいんじゃないの?」
「そうだけど、私が明日から夏休みだから、店番は私が出来るしって事で。」
「それだと、マコトちゃんが遊びに行けないんじゃない?」
「……田舎の学校って、人が少ないんだよ。」
「……それってどういう?」
「友達は少しだけだし、そんな友達は皆、街の方に家族と遊びに行く。」
「マコトちゃんは?」
「私は街よりもこっちが好きだから。おこづかいが貰えるお店の手伝いの方が良い。」
「……良い子なのか、お金の為なのか…。」
マコトちゃんは適当な駄菓子を手に取り、ボクの前にお金置く。ボクはお釣りを渡し、休みに何をするか考える事になってしまった。
「マコトちゃん。休みって何をすれば良いの?」
「何って…。本を読んだり、音楽を聴いたり、映画を観たり?好きな事をすれば良いんじゃないの?」
「所謂、『趣味』ってやつ?」
趣味なんて無いし、本も何を読めばいいのか分からなかった。畑仕事の手伝いは好きだけど、まだまだ知らない事だらけで、上手く出来る自信がなかった。
「んー…。とりあえず、休みの日にしたい事をしてみる。」
「あー、何して良いのか分からなかったか。何か困ったことがあったら何時でも連絡してね。」
「そうする。じゃあ、そろそろボクは帰るね。」
ボクは椅子から立ち上がり、足元に置いていたリュックを背負う。マコトちゃんは駄菓子を食べながら、お店の前まで見送ってくれる。ボクは自転車に乗り、家へと帰り始めた。ボクの居る田舎の道は、砂利道が多く、自転車でガタガタと走る事が多い。
マコトちゃんはボクがこっちに来た頃に、一番始めに仲良くなった子だ。お婆ちゃんに連れられて、挨拶して回っていた時だった。お婆ちゃんの後ろに隠れているボクの手を引いて、長々と駄菓子の説明を始めてくれたのを覚えてる。最初はちんぷんかんぷんな知識だったが、マコトちゃん曰く『妹みたいな存在が出来たと思った。』との事らしい。
帰る途中、リュックの中のスマホが鳴る。お婆ちゃんに『何かあった時にすぐ連絡が出来るように』と、紫色のスマホを買ってもらった。
「もしもし?」
「あ、もしもし夜空ちゃん?お仕事終わった?」
「うん、さっき終わったところ。お婆ちゃんの方はどう?」
「アタシ達の方も、丁度お茶を始めたところよ。」
「そっか。それで、どうかしたの?」
「あぁ、畑のことなんだけどね?トマトがいくつか出来てると思うから、明日でも良いから採れるものは採っておいてほしくて。」
「分かった。他にも採れそうなのあったら、採っておくね。」
お婆ちゃんから畑の仕事を任された。ボクにとっては重要な仕事だ。というのも、ここ最近狸が畑に入り込んで荒らしてる事が増えてるらしい。
「狸にタダ飯食わさぬよう、夜空頑張ります。」
前に狸に遭遇した時は、狸に鼻で笑われた。
そんな可愛くも迷惑な狸に対抗心を覚えながらも、自転車を漕ぎ始める。
家が近づくにつれ、家の前にタクシーが止まっていることに気が付く。遠くから見ているとタクシーは動き出し、女性を置いていく。
(あれ…、誰だろ……。お婆ちゃんの知り合いかな……。)
実のところ、まだボクは人と話すのが怖い。特に男性は怖くて近くにも行けない。だからマコトちゃんのお父さんも、気を使ってマコトちゃんに伝言でボクに伝えてくれている。
でも、家の前の女性で、家の前で少しウロウロしたり、何かに困っている様子だった。
(誰だろう…。ボクとそんなに変わらないくらいの年齢に見えるけど……。マコトちゃんに助けを…、いや、自分の家なんだから、ここはちゃんと自分で行かなくちゃ。)
女性に出来るだけ近寄り、後ろから声を掛ける。
「あの…、うちに何か御用でしょうか?」
彼女はボクに気付いてなかったみたいで、かなり驚いていた。彼女は慌てた様子でこちらに振り返り、用件を話す。
「あぁあっ、えぇっと、よよよよ、よ、夜空さんがこのお家に!!い、いらっしゃるってきき、聞きましてぇー!!」
振り返った彼女はよく知っている人だった。でも、今のボクが会うべきじゃない人だった。
「………、え、美空?」
「えっ、夜空……?」
目の前にいたのは、ボクが一方的に別れた友達だった。大好きな友達。本当なら、会えたことを喜びたい。すぐにでも抱きつきたい。
でもボクは、唇を強く噛み締めた。美空の目元には薄っすらとクマが出来ていた。頬も少し痩せている。自分と一緒に居たから、美空が自分と同じ姿になっているみたいになってしまっていた。
そんな美空を見て、思わず目を背けてしまった。
「……何でここに居るの?」
ボクの言葉に美空は嬉しそうに答える。
「会いに来た。」
来てほしくなかった。ボクを忘れてそんな姿にならずに、幸せになってほしかった。
「『さよなら』って言ったじゃん。」
「あたしは言ってない。」
「でもボクは……!」
君に忘れてほしかった。君に幸せになってほしかった。だから、『さよなら』って伝えたのに。
そう答える前に、美空はボクに抱きついてきた。抱きしめたい。でも、そんな事をしたら、
『美空が、ボクみたいに汚れちゃう。』
そう思うと、怖かった。それでも美空は、強くボクを抱きしめる。
「み、美空……。苦しぃ…。」
「うるさい。勝手に居なくなりやがって。……何が『ごめん』だよ。謝らないといけないのは、あたしの方なんだよ…。」
美空は悪くない。
「……美空は何も悪くないじゃん。ボクが居たから、美空に迷惑かけて、嫌な思いさせて、悲しませて……。」
それに、こんな姿にさせてしまって。
「全部、夜空のせいじゃない!夜空の事を何も知らないのに分かってる気になって、夜空が一人で傷付いてる事にも気付いてなくて…、夜空の家のことも……、相談にのってあげられなくて……。グスッ…。」
美空の涙が、首元に落ちた。温かくも、少し冷たい涙は、背中を伝ってゆく。
「美空…?泣いてるの……?」
「泣いてるよ!夜空に泣かされた!あたしにとって『大好きな大好きな可愛くて大切な人』に泣かされたの!」
ボクは美空の大きな声に、少しびっくりしてしまった。いつも笑顔で、綺麗でカッコいい美空が、泣きながら『好き』と言ってくれた。嬉しかった。ボクも『好き』と答えたかった。けれど、
「……ごめん。」
ボクは汚れてる。美空の言葉に答えられる資格が無い。触れることも、傍に居ることも、全部君を傷つける理由になってしまう。
でも、昔と違うと言ってくれるなら、もう少しだけ、傍に居たい。
そう思うとボクは、いつの間にか美空を抱きしめていた。
日が高くなり暑さが増してきたので、美空を家の中に入れてあげた。お婆ちゃんと一緒に暮らすにしては大きな家。お婆ちゃんが家族が増えたからと嬉しそうに買っていた大きめのソファに美空を座らせて、とりあえず冷やしていたお茶を出してあげる。
美空はお茶を少し飲むと、
「……元気にしてた?」
と聞いてくる。それに対してボクは、
「うん。」
としか答えなかった。何を話せば良いのだろう。昔はどんな会話をしてたっけ。昔は意味も無い話題を話して、笑ってたのを覚えている。でも、何故か上手く出来ない。
「……美空は、本当に何しにここまで来たの?」
「……夜空に会うため。」
「んー……。他の友達と遊びに行ったりする方が楽しいと思うんだけど……。」
「……やだ。」
また泣きそうな美空を見て、また会話に困り始める。
「今、遠い親戚のお婆ちゃんと一緒に暮らしてるんだ。」
「……知ってる。」
「あと高校だけど、中退した。」
「……何それ、初めて聞いた。」
「うん。美空には初めて言ったから。」
また会話が途切れてしまう。昔のことを言うと、また心配させそうで怖かったから、最近の事しか伝えなかった。
それから少しずつ会話を続けた。ボクも知らなかった美空の家族のこと。少しの間、お婆ちゃんは旅行で居ないこと。
それから、ボクは自分の体を美空に見せようと思った。気味悪がられるかもしれない。見せたら帰ってしまうかもしれない。
でも、美空はボクの事を知りたそうな顔をしていた。
「……今なら誰も居ないし、ボクの体…見てみる……?」
「……へ?」
美空は驚いていた。正直ボクも怖い。でも、受け入れてくれるかは美空次第だった。
ボクがTシャツを脱ごうとすると、
「……あたしに見せたら、何処かに行くの?」
美空が変な事を聞いてきた。何のことか分からず、ただボクはこの後何処かに行く予定もなかったから、
「いや、何処にも行かないけど……?」
と、普通に答えた。……美空の様子が少しおかしかった。
ボクはそのままTシャツを脱ぎ、美空に体を見せる。アザの数はかなり減り、痛みも少ししか無い。
「……痛くないの?」
「全然。最近は寝てても痛くないから、ぐっすり眠れるんだ。」
やっぱり見せるべきでは無かっただろうか。それでも、秘密のままにしておきたくなかった。
「……良かったね。」
美空はそう言うと、ボクに抱きついてくる。
何で美空は、ボクを嫌がらないのか不思議だった。たぶんだけど、ずっと心配してくれてたのかな。
……美空を安心しさせられる方法があればな。なんて考えてると、スマホの事を思い出した。
これがあれば、美空を心配させるような事は減るんじゃないかと思い、美空から少し離れてTシャツを着て、リュックからスマホを見せる。
すると美空は嬉しそうな顔をしていろいろ教えてくれた。電話機能しか使ってなかったから、美空がオススメのアプリをいくつか教えてくれて、使い方も教えてくれた。
ボクのスマホに、初めて友達の連絡先が追加された。……マコトちゃんのは、職場の連絡先としか使ってなかったから、今度改めて交換しようとも思った。
ふと、美空の待ち受けが気になったボクは美空のスマホを少し無理矢理取って、見せてもらった。そこには学校の机で爆睡してるボクの寝顔が写っていた。
勿論問い詰めたが、イタズラで撮ったつもりだったが、ボクが居なくなってから寂しくてずっと待ち受けにしていたらしい。
「ボクも美空の写真を待ち受けにする。」
そう言うと美空は恥ずかしそうに断ってきた。『お互いの写真を待ち受けにしたい。』と恥ずかしかったが伝えると、嬉しそうにツーショットなら良いと言ってくれた。
それからいろんな角度で、いろんな顔で二人で写真を撮った。楽しかった。これが、『普通』なんだなって分かった気がした。
しばらく二人で時間を忘れて写真を撮っていると、美空が今の時間に気が付いたと思ったら、何かに慌てていた。
『夜空に会うことばかり考えてて、宿泊先を考えてなかった』
そんな事を美空が言う。こんな田舎に宿泊出来る場所なんて全く無い。そう思うと、美空ともっと一緒に居たいと思い、「うちに泊まる?」と聞いた。美空は嬉しそうにしてた。とりあえずお婆ちゃんに電話で伝えようと思って、隣の部屋に移ってお婆ちゃんに電話をする。
「もしもし?夜空ちゃん、どうしたの?」
「……あ、お婆ちゃん。えっと、相談したいことがあって。」
「彼氏できたの?」
「違うよ。」
「じゃあ、マコトちゃんが恋人に?」
「だから違うって。ちゃんと聞いてよ。」
お婆ちゃんは笑いながら、ようやく真面目に聞いてくれる様子になった。
「……ボクが、少し前まで一緒に居た友達の話をしたの、覚えてる?」
「とても仲が良かった女の子のこと?」
「うん、今その子が家に来てるんだけど…、泊まるところを考えてなかったみたいで、ウチに泊めても良い?」
「アタシは大丈夫だけど…、夜空ちゃんは大丈夫?」
「え、ボク?何で?」
「だって夜空ちゃん。いつも寝言でその子の名前を呼びながら謝ってたじゃない?本当は一緒に居るのが辛いんじゃないの?」
「ボクは……どうなんだろ……。」
ボクにとって、美空と居ることは辛いのだろうか。美空と居ると、自分への嫌悪感が強くなってしまう。美空が幸せから離れてしまっている気がしてしまう。
ボクは少しだけ扉を開け、美空の様子を見る。よく分からないけど、顔を両手で隠しながら一人で恥ずかしそうにしている。
「……よく分かんない。今までこんなボクに会いに来る人なんて居なかったし。好きだって言われたのも初めてだし。」
「あらあら。なら、尚更一緒に居たほうが良いんじゃないの?夏休みが終わったら、また学校が始まって会えなくなるんだから。」
「あ、そうか。一緒に居られるのも、今だけかもしれないし……。」
美空が冬休みに会いに来てくれるとは限らない。次の夏休みも、その先も。美空に本当の恋人が出来てしまったら、ボクの事を忘れてしまうのだろう。
そう思うと、寂しくなった。
「……ありがと、お婆ちゃん。お婆ちゃんが帰ってくるまでの間に、もっと素直になってみる。」
「もしまた何か困ったら、いつでも相談しなさい?人生の先輩として、教えてあげられる事は教えるつもりだから。あと夏休みの間、好きなだけ居て良いって伝えてあげて?」
「うん、ありがと。それじゃ、おやすみなさい。」
ボクは電話を切ると、美空に『大丈夫』と伝えに行った。それから、
(……自分に素直に。相手にも、素直に。)
ボクはそっと美空に近寄り、抱きつき、美空の胸元に顔を埋める。布越しに伝わる美空の体温、美空の柔らかい肌。美空は驚いていた。
「………ボクも好きだよ、美空のこと。」
恥ずかしい。顔が赤くなっていくのが自分でも分かってしまう。それでも、美空の温もりと匂いは、ずっと不安だったボクの心を落ち着かせてくれた。
しばらく抱きついたまま二人で話をした。美空が畑の手伝いをしてくれる事になった。アルバイトも少しの間休みを貰った事も伝えた。
少しして、ボクと美空のお腹が鳴った。二人で笑いながら、二人で作れそうな物をスマホで調べながら、一緒に料理をした。ご飯を食べた後は二人でお風呂に入った。普段は一人で入ってたから、少し大きめだと思ってたのに、二人で入ると結構狭かった。
美空の肌が直接触れるたびに、胸がドキドキしてしまった。直接触れる肌の感触は少しひんやりとしてるようで温かく、そして柔らかかった。
(……やっぱりこうしてると、昔を思い出しちゃう。)
頭を洗ってくれている美空の手の動きに、過去にされた事を思い出してしまう。髪に触れる美空の指先が、少しずつ知らない誰かの指先に感じてしまう。頭の先からお湯をかけられると、ボクはふと我に返り、昔のことを忘れるようにした。
お風呂から出た後も、美空は楽しそうだった。たぶん無意識かもしれないけど、ずっとくっついてきてる。スマホの待ち受けもボクの寝顔になってたし…。そう思いながらも、美空とのツーショットを何度も見直しながら、一人でニヤニヤしていた。
「……夜空とずっと、こうしてたい。」
美空がボソッと呟いた。
「……え?」
「……ん?」
美空は自分が声に出していた事に気付いてなかった。そんな美空の様子に疲れてるのかな、と思いつつ、布団を用意し始める。
「美空、ボクの布団で悪いんだけど、今日はコレで寝てね。」
「夜空は?」
「ボク?ボクはソファで寝るけど…。」
美空の顔が、もの凄く嫌そうな顔になった。流石に女同士でも、ボクみたいのが使ってるのだと汚く見えるしな…。
そんな事を考えていると、
「夜空も一緒に寝よ?」
と、美空が言ってくる。
「いや、二人だと狭いし…。」
「あたしは夜空となら、狭くても良いよ?」
「………。」
美空がこうなってしまうと、ボクが良いよと言うまで動かなくなることが少し分かってたから、「分かった」とだけ言い、一緒の布団に入る。
美空は寝転んだボクの隣で、横向きに寝転び、横顔をずっと見てくる。
「……早く寝なよ。」
「うん、寝るよ。夜空が寝たら。」
「先に寝てよ。またボクの寝顔、写真撮るつもりでしょ。」
「撮らないよ。」
「じゃあ、何?」
また何かイタズラをしようとしてるのかな、そんな事を考えていると、
「夜空と一緒に居るって、安心したいから。」
美空は寂しそうに言った。ボクは体を体ごと美空の方に向き直すと、美空の顔が触れそうな程に近い。月明かりで見える美空の顔は、とても綺麗だった。
「居なくならないから。ボクはここに居る。美空の学校が始まっても、ボクはここで待ってるから。」
「……浮気、しない?」
「浮気って……。はぁ…。大丈夫、ボクは美空だけのものだよ。」
ボクはそう言うと猫のように丸まり、美空の体温を感じながら寝ようとした。
少しして眠気で意識が朦朧としてきた頃に、美空から「おやすみ」と言われたことだけは覚えている。
おやすみ、また明日。
彼氏よりも先に、彼女が出来てしまった。お婆ちゃんとマコトちゃんに何て伝えれば良いのだろう。それでも今日は、いつも以上に眠れる気がした。
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