第2話


 教室の前に着くと、ドアに座席表が貼ってあった。

 

「やった、1番後ろだ。」

 

 私の席は窓側から2列目の最後列だった。


 廊下側より窓側の方が明るくていいよね。


 私は確認した自分の席に座った。


「せなちゃ〜ん!」

 

 荷物を席の横にかけていると、大きな声で名前を呼ばれた。


 声が聞こえた方向に顔を上げると、可愛らしい女の子が駆け寄ってきた。

 

「おはよう、ひな。」

 

 私がひなと呼んだ少女は、目を大きく開けて笑っていた。


「おはよ!同じクラスになれたね!!」


ひなは私の両手と手をつないで飛び跳ねている。


「喜びすぎだって。」

 

「え~そんなことないって!」

 

 ひなは、ぷくっと頬を膨らませた。

 

「ほら、紗波が困ってんだろ。許してやれ、妃奈乃ひなの。」

 

 ひなへの返答に困っていると、その後ろをついてきた長身の男の子が突っ込んだ。

 

「よっ、紗波。元気してたか?」

 

「元気だったよ。はるは?。」

 

「俺はこの通り、ピンピンしてるぜ。」

 

 晴は妃奈乃の制服の襟を掴みながら答えた。

 

 襟首をつかまれたひなは、母親猫に首をかまれて運ばれる子猫のようだった。


「2人の席はどこらへん?」

 

「俺があそこで、妃奈乃は俺の後ろだ。」

 

 私が2人の席を聞くと、晴が席の方を指さしながら答えた。

 

「そっか、空前そらまえに武田だから前後になるんだね。」

 

「ほんっと、晴の背中で黒板が見づらいんだよ!」


 未だ晴に釣られながら、ひなが起こっていた。

 

「お前ちっちぇーからな。」

 

「晴が大きいんだよ!ひなは小さくないもん!」

 

 晴とひながいつものように口喧嘩している。


 だけど、今の状況を見て考えると圧倒的に晴へ軍配が上がっている。

 

「てか、紗波の隣はまだ来てないのな。」


 バタバタと暴れるひなをものともせず、晴が私に指摘した。


 隣の机には誰の荷物もなく、席には誰も座っていない。

 

「そうだね。どんな人が来るかな。」

 

 座席表の名前的に男の子だと思う。


 ただ見覚えがある名前じゃなかった。


 「まぁ、いいか。そろそろ戻るぞ、妃奈乃。」

 

 晴とひなはそれぞれの席に戻って行った。


 いつの間にか、ひなは解放されていた。


 2人が去ると、急に隣の空席を意識してしまう。


 今日はもう来ないとか?


 時間的にも、もう少ししたら体育館に移動しないといけない。

 

 怖い人じゃなければいいな。


 私は考えることをやめて、机にうつぶせになった。


 窓越しに空を見上げると、雲一つない快晴だった。


 いい天気。


 まぶしい日差しに、私は目を閉じた。

 




 ――――コンコンコン。


「んー、起きないなぁ。」


 机をノックする音と誰かの声がする。


「おーい。」


 また、同じ声に呼びかけられている。


「怒らないでね。」

 

 その言葉の後、軽く身体を揺らされた。

 

「起きないと遅れるよ。」

 

「……ぅん?」

 

「あ、起きた?」

 

 目を開くと、男の子が私を見下げていた。


 だれこの人……?


 目の前に立つ人物に思い当たる節がなく、まぶたを数回瞬きさせた。

 

「ずいぶん、熟睡だったんだね。」

 

 優しげで軽やかな声により、自分が寝ていることに気づいた。


「痛っ」


 急いで起きようとして、思いきり机に膝をぶつけた。


 そんな慌てた私を見て、男の子は「ふっ」と小さく吹き出した。


 膝の痛みと羞恥心が一気に押し寄せ、頬が熱くなるとともに頭が冴えていくのを感じる。


「私、いつから……」

 

「僕が教室入った時には、もう寝てたよ。」

 

 私のつぶやきに彼が答えた。

 

「あれ、みんなは?」

 

 私の近くに座っていた周りの人たちが居なくなっていた。


「ちょうど今廊下に並び始めたよ。」

 

 廊下側を見ると、彼の言う通り教室からぞろぞろとクラスメイトたちが出ていっていた。


「良かった。」


 もう入学式が始まってるのかと思った。


 私は一息ついた。

 

「ほらほら、僕たちも行かないと。」


 彼は、安心してる暇ないぞと言わんばかりに私を急かした。

 

「う、うん。」

 

 私は彼の背中に引っ張られるように立ち上がり、廊下に向かって歩き出した。



 


 

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