私の隣は君がいい
パリパリチョコ
第1話
――ベッドの上の目覚まし時計が鳴る。
ぼんやりとした意識のまま手を伸ばし、アラームを止めた。
「ん゛~ん、もう朝かぁ」
時計を見ると、いつもより早い時間だった。
眠気を振り払うように背伸びをして、まだ折り目の残るパリッとした制服に袖を通した。
「まだ朝は寒いな。」
階段を下りて洗面所についた。
洗面器にぬるま湯を貯め、顔を洗った。
「ふぅ」
一息ついて、洗濯された真っ白いタオルで顔を拭いた。
ヘアバンドを外し、髪を櫛でといて身だしなみを整えた。
「いい感じ?」
鏡を見ながらつぶやいた。
「おはよー」
リビングのドアを開けると、キッチンにお母さんが立っていた。
「あら、
「いい匂い。」
ふんわりと味噌の香りが漂い、鼻をくすぐる。
「もうすぐ、ご飯できるからね。」
「はーい。」
制服にしわが寄らないように、そっと椅子に座った。
「あ、世凪。」
「んー?」
キッチンの方に顔を向けると、味噌汁をかき混ぜているお母さんと目が合った。
「新しい制服、似合ってるわね。」
「急にほめないでよ。」
自分の制服姿を褒められて、どこかむず痒かった。
朝食を食べ終えた後、私は制カバンをもって革靴を履いた。
靴箱の上に置いてある家の鍵をとって、玄関のドアに手をかけた。
「行ってきます。」
私は玄関のドアを開けた。
自転車の荷台にカバンをのせ、軽くサドルを叩いてから、ゆっくりとまたがった。
「出発っ」
ペダルに足をかけ、家を出発した。
自転車を漕ぎだすと、ひんやりとした朝の風が頬をかすめた。
歩道では、小学生たちがランドセルを揺らしながら走っている。
向かいのパン屋からは、香ばしい匂いが漂い、コンビニの前ではスーツ姿の男性がコーヒーを片手にあくびをしている。
見慣れた道、変わらない風景、よく見かける通行人。
いつもと変わらないこの通学路も、今年で4年目。
高校生になった特別感は全然ない。
「高校棟をもうちょっと中学棟から離してくれれば良かったのに。」
文句を言ったところで、家も学校も変わらない。
やるせない愚痴をこぼしながら淡々と自転車を漕ぎ続けているうちに、学校に到着した。
すごい車の数。
駐車場にはいろいろな車が入り、交通整備員の人たちが忙しなく動き続けている。
駐車場の横を通り過ぎると、正面の校舎前にクラス発表の掲示板が置かれていた。
「うわ~、やっぱ混んでる。」
掲示板の周りには、新入生やその保護者、誘導係の先生などが密集していた。
あの中に突っ込みたくないって。
早く自分のクラスを確認したいのに出来なそう。
見に行きたいのに、見に行きたくない。
私の中で見本のような矛盾が生まれていた。
どうしようか。
掲示板を横目に右へ曲がって、食堂裏の駐輪場に自転車を止めた。
うーん。どこか、ちょうどいいとこ……。
掲示板の人たちが解散していくまで、時間をつぶせそうな場所を頭の中で探した。
あ、中庭いいかも。今なら人いないだろうし。
私は中庭を目的地に歩き出した。
「早めに家出てよかった。」
一息する時間を確保できた喜びを感じながら駐輪場を抜けると、目の前に中庭のテラスの屋根が見えてきた。
風が気持ちよさそう。
中庭の芝が風に当てられて、さらさらと揺れていた。
中庭をコの字形に囲んだテラスの真ん中で、運動場を眺めるように誰かが座っていた。
だれだろう。
座っている人から私の姿が見えないあたりに荷物を置いて腰を下ろした。
下ろした荷物を整理してからもう一度、座っている人を見た。
座っている人は青みがかった髪色をしている男の子で本を読んでいる。
一定のリズムでめくられるページと、そこに書かれた文章を追う目だけが動き、中庭にはページをめくるパラパラとした音と風にゆられる芝のさらさらとした音しか流れていなかった。
新入生……?
私の位置からは男の子が何年生であるかを示すネクタイの色を確認できなかった。
もうちょっと近づけば見えそう。
私が立ち上がろうとしたときに、突然強い風が吹いた。
うわっ
私はとっさに前髪を抑え、目を閉じた。
再び目を開けると、本を読んでいた彼は空を見上げ風に吹かれていた。
彼が開いている本のページが勢いよくめくれ、中庭の芝だけでなく、周りに植えられている木の葉もゆれている。
風がやむときには近づこうとする気持ちはなくなり、予定通り少し休んでから掲示板の場所に戻った。
掲示板の周りに群がっていた人達が解散していく姿を遠目で確認して、掲示板に近づいた。
掲示板には、横一列にズラっと名前が羅列されている。
私の名前はどこだろう。
指でなぞるように探した。
――――あった。
12番
なかなか自分の名前が見つからなくて焦ったけど、無事に見つけられた。
そして、同じクラスに友達の名前を見つけた。
「一人ぼっちは、なんとか回避。」
ホッと胸を撫で下ろしながら、教室に向かった。
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