第8話《むこうがわのソフビ》

1991年。

団地の友達の間で、奇妙なウワサが流れていた。


「夜中の3時に、4チャンネルの砂嵐を10分見つめると、“むこうがわのCM”が流れる」


子どもらしいイタズラ話だと思っていた。


だがある日、同じ階のタカヒロが言った。


「見たよ。赤いソフビ人形のCM。怖くてチャンネル変えたら、テレビ壊れた」


タカヒロは翌週、引っ越した。理由は教えてもらえなかった。


気になったぼくは、夜中の3時に目覚ましをかけ、テレビの前に座った。


ブラウン管は、ザー……といつもの砂嵐。

時計の針が3時10分を指したとき、映像が変わった。


画面には、古びたソフビ人形が並んでいた。

声はない。BGMもない。

ただ、目だけがカメラのこちらをじっと見ていた。


やがて、字幕が現れる。


《あそびにおいで。すぐそこにいるよ》


画面がぐにゃりと歪み、映像は止まった。

テレビはそのまま映らなくなった。


翌日、親は新しいテレビを買ってきた。


夏休みが明けたころ、学校でプリントが配られた。


「おもちゃの ひきとりに ごちゅういください」

「最近、赤いソフビ人形がポストやげんかんに おかれている じけんが おきています」


クラスメイトの一人が言った。


「ねえ、これって、見たことあるやつに似てない?」


ぼくの家のポストにも、翌日、入っていた。

赤いソフビ人形。

目が、こっちを見て笑っていた。

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