第7話《なつやすみの おもいで》

1993年の夏。小学二年生の「ぼく」は、親の都合で祖父母の家に一人で預けられた。

田んぼと山しかない田舎で、テレビだけが娯楽だった。


古いブラウン管。ダイヤル式。リモコンは壊れていた。


毎日午前10時になると、「ぼく」はNHK教育の番組を見ていた。

その日も、いつも通りにチャンネルを回す。


だが、映ったのは見慣れない番組だった。

タイトルは『なつやすみの おもいで』。


紙芝居風の映像に、女性の優しいナレーションが流れる。


「きょうは、ひろしくんの いちにちを みてみましょう」

「ひろしくんは、あさ おきて、おじいちゃんの はたけを てつだいました」


画面には、白黒写真のような静止画。

動かない「ひろしくん」の写真。

目元が妙にぼやけていた。


ナレーションは続く。


「ひろしくんは、ひとりで かわに あそびに いきました」

「でも、おかしいですね。ひろしくんは……かえってきません」


画面が突然、砂嵐になる。

ぼくは驚いて、テレビのダイヤルを回した。


でも、どのチャンネルにしても、その番組しか映らない。


映像が戻る。

川の写真。

水面に、ぼやけた男の子が浮かんでいる。


「ひろしくんの なつやすみは、まだ おわりません」

「ずっと、つづいています。あなたの、なつやすみも」


画面には、「ぼく」が写っていた。




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