第9話《ミーミくんにあえた日》

1992年。小学4年の夏休み。

地元のローカルスーパー「たからや」が、CMキャンペーンをやっていた。


「たからやへ いこうよ〜♪」という耳に残るメロディ。

その中に登場する、着ぐるみのマスコットキャラが《ミーミくん》だった。


うさぎのようでうさぎでない、丸くて青い体。

目が極端に大きく、口は常に笑ったまま動かない。


どこか落ち着かない造形だったが、僕はなぜか夢中になった。


近所のたからやでは、子ども向けに「ミーミくんぬりえ大会」も開かれていた。

優秀賞には、ミーミくんに会えるチケットがもらえるという。


僕は夢中で応募し、ある日、白い封筒が届いた。


《ごとう ひかる くんへ》

《ミーミくんに あえるけん》


裏には「◯月◯日 午後6時/たからや旧配送センター」と書かれていた。

なぜ店舗じゃないのか、不思議に思ったが、当日、僕は一人で行った。


配送センターはすでに閉鎖されており、がらんどうの倉庫に照明だけがついていた。


奥の暗がりから、かすかに音楽が流れてくる。


「たからやへ いこうよ〜♪ たのしい ミーミくんと〜♪」


そして、現れた。

着ぐるみのミーミくん。

…の、ようなもの。


実際には着ぐるみではなかった。

ぬるりとした青い毛並み。

生き物のようにうねる耳。

ギョロリと動く目が、僕を見下ろしていた。


声は出さなかった。

代わりに、口がぱくぱくとゆっくり開閉する。


「ヒ、カ、ル、ク、ン」


それだけ言うと、ミーミくんは、両手を広げて僕を抱きしめた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おかしなおかしな ロロ @loolo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る