第3話《回収袋》

駅の改札を抜けると、白い袋を配っている男がいた。


「こちら、お持ち帰りください」


男は駅員の制服を着ていたが、どこか見覚えがない顔だった。

周囲の通勤客たちは、当たり前のように袋を受け取っている。

ためらいながらも、男も一枚、袋を受け取った。


──紙袋には、こう書かれていた。


《不要なものを入れて、駅に戻してください》


不要なもの。

ゴミか? それとも古着か?


その夜、男は家で袋を広げた。

が、袋の中には、すでに何か入っていた。


小さな、黒い粒。

よく見ると、それは──指先だった。

爪まできちんとついている、人間の指のかけら。


ぞっとして袋を閉じようとしたが、指は、じわりじわりと袋の中で動いている。


(捨てろ……駅に持っていけ……)


脳裏にそんな声がよぎった。

震える手で袋を縛り、翌朝、駅へ向かった。


だが、あの袋配りの男の姿はなかった。

周囲の誰に聞いても、

「袋なんて配ってませんよ」と怪訝な顔をされた。


仕方なく、袋をベンチの下にそっと置いた。

そのとき、袋がかすかに震えた。

ベンチの奥、暗い隙間から、細い手が伸びて袋を引きずり込むのが見えた。


男は逃げるように駅を後にした。


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