第2話《くじらチャンネル》

テレビをつけたら、妙な番組が映っていた。


真っ青な海。

そこに、巨大なクジラがぽっかりと浮かんでいる。


『──こちら、くじらチャンネル。』


低い男の声がナレーションを入れる。

クジラはゆっくり、こちらに近づいてくる。

水面には、何かがぷかぷか浮かんでいた。人──だろうか。

それとも、ただの白い布か。


男はリモコンを握り直したが、チャンネルは切り替わらなかった。

電源ボタンも効かない。


『次は、あなたの番です。』


クジラの瞳が、画面越しに、こちらをじっと見た。

ぞわりと背筋に寒気が走る。

ふと、部屋の奥から、ぴちゃん、と水音が聞こえた。


振り向くと、そこに──小さな水たまりができていた。

家の中に、水なんて……。


いや、違う。

水たまりの中に、小さな黒い目玉が浮かんでいた。

じっと、男を見上げている。


『くじらチャンネルは、お楽しみいただけましたか?』


再び画面に戻る。

クジラの口が、大きく開いた。


──飲み込もうとしている。


男は叫び声をあげる間もなく、ぐらりと視界が揺れた。

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